『ふしぎ遊戯玄武開伝』で描かれる戦いと希望
『ふしぎ遊戯玄武開伝』は、渡瀬悠宇による漫画作品です。玄武、白虎、朱雀、青龍の四神伝説と天の赤道に28の恒星を配した二十八宿思想をベースに、四神を呼び出す少女の戦いが描かれます。朱雀と青龍を巡る『ふしぎ遊戯』の続編にして、前日譚です。
大正時代の女学生・奥田多喜子が、反発していた父の訳した書物『四神天地書』に吸い込まれ、本の中に広がる異世界で玄武の巫女となります。神獣を司る七つの星を証としてその身に宿す七星士と共に玄武を召喚するのが巫女の役目ですが、その道なりは過酷なものでした。
前作の『ふしぎ遊戯』では、巫女や七星士は救世主として扱われましたが、多喜子は本の世界における初の巫女です。「国に危機が訪れる時、異界から巫女が現れる」との伝承があり、巫女も七星士も不吉の象徴され迫害されてしまいます。
北甲国の皇帝。テギルは圧政を敷いて人心に見放され、テギルの兄のテムダンは「父王を殺す」との予言故に七星士でもある息子の女宿(うるき)の命を狙い、北甲国を狙う倶東国の軍勢も巫女や七星士を厄介に感じて討伐隊を結成するのでした。
多喜子たちは、救世主どころか、天災や人災の元とされてしまいます。それでも、多喜子は次第に巫女として北甲国を救いたい気持ちが芽生え、七星士たちも共に旅をする内に彼女と共に玄武を呼び出したいと願い、女宿は多喜子と愛し合うようになります。しかし、巫女は神獣を呼び出し、願いを叶えたらけ贄として食われる運命でした。一度現実世界に戻った多喜子は、母から感染した結核により余命いくばくもない命となります。
この作品では登場人物の多くが心に傷を負い、各々の信念の下に行動します。そして、各々の運命を乗り越えていくのでした。七星士は、多喜子が玄武を呼ばずに済むよう自分たちだけで倶東国軍を退けようとしますが、北甲国に氷河期の予兆である天変地異が訪れます。
多喜子は自分の使命を果たしたいと皆を説得し、玄武を呼び出すことに成功しました。結核の症状、玄武に身体を食い荒らされる痛みと戦いながら北甲国に春をもたらし、倶東国との戦で傷ついた者を敵味方関係なく癒します。
願いは三つ叶えられますが、二つ目の願いが叶ったところで多喜子は死亡、女宿や皆に国の行く末を託し、満足して息を引き取りました。
命がけで、他者の為に玄武を呼んだ巫女を不吉と見なす者はもうおらず、皆が巫女に頭を垂れました。
葛藤、病、自身の宿命と、あらゆる戦いが『ふしぎ遊戯玄武開伝』では描かれています。多喜子の場合は巫女になった自分の責任を果たす為に病と闘い、巫女の宿命と戦い抜きました。『ふしぎ遊戯』で巫女、七星士が救世主とされているのは、多喜子の戦いによるところも大きいでしょう。
その他のキャラクターの戦い、それによってもたらされる希望も見どころと言えます。