彼女たちの青春は”南極”だった
あらすじは、何かを始めたいと思いながらもなかなか一歩を踏み出せずにいた高校2年生の玉木マリ(たまき まり)ことキマリは、ある日100万円の入った封筒を拾ったのをきっかけに、南極を目指す少女・小淵沢報瀬(こぶちざわ しらせ)と出会う。高校生が南極に行くのは不可能だ、と言われながらも絶対にあきらめようとしない報瀬の姿に心を動かされたキマリは報瀬とともに南極を目指す、という物語。
2018年にニューヨーク・タイムズ紙において「最も優れたテレビ番組」の一つに選ばれるほど高い評価を受けた本作だが、その大きな魅力は「思春期のブラックな感情をリアルかつ絶妙に描いている」というところです。
作中でキマリらが南極に行くことを周りの人にバカにされるが、物語が進んでいくにつれて周りの目が変わってくる。多くの作品だと主人公らを評価する流れになるが、この作品では嫉妬からデマをSNSで流されたり、陰口を言われるようになるという展開になる。そういった人間味あふれているリアルな演出がこの作品では多い。筆者がこの作品で一番印象に残っているシーンが、初めて南極に降り立った時、報瀬の一言目が「ざまあみろ」だったところ。今まで馬鹿にされ続けた鬱憤、それをエンジンにして頑張り続けてきたことすべてが、「ざまあみろ」という一言に表れている。きれいな言葉ではなく、あえて少し汚い言葉を出すというリアルさ。しかし、そういったブラックな感情や人間味あふれるリアルさを描きながらも作品を通して暗くなりすぎない、その絶妙な演出がほかのアニメ作品や青春をテーマにした作品にはない大きな魅力だと思います。
そして、もう1つの魅力は「それそれが動き出すために、南極に行く」というところです。というのも、この作品のメインキャラクターはキマリと報瀬を含めた4人なのだが、それぞれがそれぞれの悩みで「止まっている」状態にある。キマリは「何かしたい」という思いは持っていたが、人に流されやすい性格のせいで、なかなか一歩踏み出せずにいた中で、自分で南極に行くことを決め、その過程で「何かしたい」で止まっていた自分が動き出していく。報瀬は南極で行方不明になった母の死を実感できず、南極に来ても受け止めることが出来ずに止まっていた中で、仲間とともに過ごしていく中でその未練を断ち切り動き出していく。「新しいことにチャレンジしてみたい。でもなかなか一歩出ずにいる」そんな人にこの作品は刺さりやすいのではないでしょうか。
また、この作品は中高生の人にぜひ見てほしいと思います。思春期にしかない「後先考えずに行動すること」や「人との付き合い方の難しさ」などがリアルかつ明るく描かれています。また、大人になってこの作品を見直してみると、別の視点から見ることが出来るのではないかと思います。