イエスタデイ / Yesterday

イエスタデイ / Yesterday

『イエスタデイ』はイギリスで制作されたスタイリッシュでハートフルなラブコメディ映画である。売れないシンガーソングライター、主人公のジャックはある日バスに跳ねられる。意識不明の状態から回復したものの、目覚めた世界には伝説のバンド「ビートルズ」が存在していなかった。なぜかジャックだけがビートルズを憶えている。記憶を頼りに披露した曲「イエスタデイ」をきっかけに、ジャックの平凡な人生が徐々に変化していく。ファンタジーな要素とリアルを織り交ぜながら友情、恋愛、苦悩をビートルズの名曲と共に楽しめる映画だ。

nagi-yuzukir3のレビュー・評価・感想

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イエスタデイ / Yesterday
9

人生にとって大切なことはビートルズから学んだ

もしもこうだったら、という発想はさほど新しいものではないのだけど、想像したことはあったものの、これまで作られることなかったifの映画、それがダニー・ボイルが監督するイエスタデイだ。

ビートルズが世の中から消えてしまった世界で、1人のシンガーソングライターのみがビートルズの曲を知っている、さてこの先どうなるか、という風にストーリーは進んでいくのだけど、まずこの映画を面白いものにしているのは、シンガーソングライターのジャック・マリックを演じるヒメーシュ・パテルだろう。

自分はこれだけビートルズが凄いというのが分かっているのに、誰もそのことを知らないというギャップの場面がなかなかおかしい。友人達にイエスタデイを聴かせても、反応が、まあ、いいんじやない、というものや、家族にレットイットビーを聞かせようとするたびに、何か邪魔が入って演奏が中断される。そんな場面を見るたびに、おかしいのだけど、マリックの分かってもらえない苛立ちやペーソスがこちらにも伝わるのである。(何しろ観客はビートルズのことを知っているのだから)

やがて、マリックがビートルズの伝道師となり、人々の目にも止まって有名になろうとするにつれ、彼の心はどこか満たされないものが出てくる。ビートルズの曲を自分が作ったものではないというやましさもあるのだけど、もう一つは幼なじみで長年自分のマネージャーとして支えてくれた、リリー・ジェームズ演じるエリー・アップルトンとの距離が次第に遠くなっていくというものだった。

自分がこのまま成功や名声という毒を手に入れるか、それとも…という葛藤の中でマリックは意外な人物に出会うことになる。ここが映画の中でいちばん語りたかった場面のように思えるのだけど、こここは映画を見てのお楽しみとした方がいいかもしれない。その人物と出会うことによって、マリックは自分にとって大切なものが何かということに気がつくのだから。

マリックにとってビートルズの音楽は、有名や名声ではなく、人生にとって大切なものは何かということを教えてくれたのである。そう、愛こそはすべて、All you need is love ということを教えてくれたのである。