人生にとって大切なことはビートルズから学んだ
もしもこうだったら、という発想はさほど新しいものではないのだけど、想像したことはあったものの、これまで作られることなかったifの映画、それがダニー・ボイルが監督するイエスタデイだ。
ビートルズが世の中から消えてしまった世界で、1人のシンガーソングライターのみがビートルズの曲を知っている、さてこの先どうなるか、という風にストーリーは進んでいくのだけど、まずこの映画を面白いものにしているのは、シンガーソングライターのジャック・マリックを演じるヒメーシュ・パテルだろう。
自分はこれだけビートルズが凄いというのが分かっているのに、誰もそのことを知らないというギャップの場面がなかなかおかしい。友人達にイエスタデイを聴かせても、反応が、まあ、いいんじやない、というものや、家族にレットイットビーを聞かせようとするたびに、何か邪魔が入って演奏が中断される。そんな場面を見るたびに、おかしいのだけど、マリックの分かってもらえない苛立ちやペーソスがこちらにも伝わるのである。(何しろ観客はビートルズのことを知っているのだから)
やがて、マリックがビートルズの伝道師となり、人々の目にも止まって有名になろうとするにつれ、彼の心はどこか満たされないものが出てくる。ビートルズの曲を自分が作ったものではないというやましさもあるのだけど、もう一つは幼なじみで長年自分のマネージャーとして支えてくれた、リリー・ジェームズ演じるエリー・アップルトンとの距離が次第に遠くなっていくというものだった。
自分がこのまま成功や名声という毒を手に入れるか、それとも…という葛藤の中でマリックは意外な人物に出会うことになる。ここが映画の中でいちばん語りたかった場面のように思えるのだけど、こここは映画を見てのお楽しみとした方がいいかもしれない。その人物と出会うことによって、マリックは自分にとって大切なものが何かということに気がつくのだから。
マリックにとってビートルズの音楽は、有名や名声ではなく、人生にとって大切なものは何かということを教えてくれたのである。そう、愛こそはすべて、All you need is love ということを教えてくれたのである。