温かく柔らかく、滲むように優しい世界観
聴覚障がいを持った女子大生、雪のお話。
ある日電車で、困っている様子の外国人に話しかけられる雪。聴覚障がいがあることもあり、上手く対応できずに困っていると、そこに男性が現れる。
雪の代わりにコミュニケーションをとってくれたその男性は、雪の友人である、りんと同じサークルに所属している先輩だった。
耳の聞こえない雪に動じることもなく、「また」と言い残して去っていく逸臣。
この日から雪は、逸臣に憧れを抱き、意識し始める。
後日大学で友人のりんに話を聞くと、逸臣は、世界を旅して飛び回るバックパッカーであり、近くのバーでアルバイトをしていることを知る。
そこのバーのマスターはりんの好きな人ということもあり、雪とりんは2人で勇気を出してバーを訪れ、連絡先を交換することを決意する。
いざバーを訪れた雪だが、緊張してなかなか連絡先の交換を切り出せずにいた。ホワイトボードで会話をしたり、唇の動きを読ませたり、雪が気後れしないよう自然に接してくれる逸臣に惹かれていく雪。
連絡先を聞けないままバーをあとにしたが、逸臣が帰り道を送ってくれることに。勇気を振り絞ってついに連絡先を聞いた雪。
すると逸臣は「いいよって、手話でどうやるの?」と優しく笑ったのだった。
逸臣は耳の聞こえない自分にも自然に接してくれる。
雪は、自分の世界に突然降ってきた感情を、大切にしたいと強く思った。
世界を旅するバックパッカーの逸臣と、聴覚障がいのある雪。
それぞれのキャラクターが非常に魅力的で、作画も美しい。
漫画では通常白黒で描かれるものだが、その白黒の世界でも、それに留まらない温かな世界観が表現されている。主人公である雪がぽつりとこぼす言葉からは、聴覚障がいとともに生きてきた、これまでの人生の大変さを窺い知ることができる。しかしながら、卑屈さを感じさせないその心の白さはまるで、雪という名前にふさわしいと言えよう。
2人のほか、雪や逸臣のまわりの人間も魅力的。
この作品の温かさは、少女漫画の恋愛を忘れてしまった世代にも、滲むように沁みてくる作品と思う。