羊たちの沈黙 / The Silence of the Lambs

羊たちの沈黙 / The Silence of the Lambs

『羊たちの沈黙』とは、1991年にアメリカで製作されたサイコ・スリラー映画で、アカデミー賞主要5部門を獲得した大ヒット作品である。トマス・ハリスの同名小説をジョナサン・デミ監督が映像化した。ジョディ・フォスターとアンソニー・ホプキンスが主演を務める。連続殺人事件の調査として、FBIは実習生クラリス・スターリングを抜擢。収監中の猟奇殺人犯で、元精神科医のハンニバル・レクターに捜査の協力をさせるべく派遣する。クラリスはレクターとの奇妙な関係を築く一方、自らの過去と対峙してゆくことになる。

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羊たちの沈黙 / The Silence of the Lambs
10

連続殺人犯を追うFBI女性捜査官と9人もの患者を手にかけた天才殺人精神科医の織り成すドラマ

原作も読んだが、異常の中の正常というか人間誰しもトラウマや病理を抱えている。その心の深層に深く入っていけるのは愛する人か精神科医しかいない。もしその精神科医が犯罪者だったら。その答えがレクター博士なのだ。人間が人間らしく生きていけるのは自分や他人を尊重する気持ちがあり、人間として良くありたい、こうして生きていきたい、という強い思いがあるから。自分の欲望を抑え自制心や理性を持つことができる所以である。それを逸脱した人間がこの映画の中には次々登場する。レクター博士しかりバッファロービルしかりである。
この事件の犯人バッファロービルは女性になりたいという深層願望があり、その目的を達成するためには手段を選ばない。物語の後半でクラリスが犯人は乳房のついたベストを作りますと見抜くが、だから女性を殺しその皮を剥ぐという行為に出るのだ。まさに異常心理だが、その犯人の行動を分析し次の犯罪を未然に防ぐには犯人を理解し追い詰めていくしかない。ミイラ取りがミイラになる。この言葉の恐ろしさを改めて噛み締めた。精神的異常者と接したりその世界を覗こうとする者は強い意志と自己分析能力がないと異常な側の世界に飲み込まれてしまう。
正気と狂気は紙一重。レクター博士も捜査協力する見返りとしてクラリスのプライベートな身の上話をすることを要求する。その中からクラリスの持つトラウマ、精神的な弱い部分を掴み取ってしまうのだ。まさに精神科医である。自分の深層心理に深く入り込んでくるレクター博士とそのやりとりの中から捜査のヒントを掴み、犯人検挙しようとするクラリスとの心理戦、見応えがある。
犯人を逮捕した後、クラリスに電話で「もう羊たちの鳴き声は止んだかね?」。そう語りかけてくるレクター博士の中にトラウマを自分のために利用せず優しく包む紳士を見た。殺人者だがクラリスに対しては最後まで精神科のドクターであり続けたのだ。