人生の分岐点に立った時、自分が想像していなかった道へ進むのは怖い。けれど選んだその先にあるのはあの朝の青い世界だった。
高校2年生の主人公、矢口八虎は毎日を当たり障りなく淡々と過ごしていた。成績優秀、誰とでも仲良く人当たりの良い八虎だが、本人にとってはどこか空虚な日々だった。ある日、受験には関係ないからという理由で選択していた美術の授業で私の好きな風景という課題を出される。やる気なんて全然無かったはずなのに、美術の先生や美術部の先輩の言葉によって、なんかいいなと思っていた早朝の青い渋谷を描いた。好きなものを好きと言うことが怖いということを知った八虎は、その絵を友達に理解してもらい褒められた時涙する。その時初めて人と話しができた気がしたからだった。進路に選ぶのは無謀だと思いつつもあの時の楽しさや胸の高鳴りを忘れられず、美大への道を目指していく。というストーリーだ。
自分の心動かす対象を見つけた時の劇的な世界の変わりようは、見ている方も心動かされる。八虎も絵に出会って人生がどんどん変わっていく。高2から絵を描き始めるという遅めのスタートでありながら、元々の努力家という気質を生かし周りとの差を縮めていく様は応援もしたくなるが、それ以上に憧れすら抱いてしまうくらいだった。がむしゃらに夢を追いかける、迷いながら葛藤しながらそれでも将来を見据えて進んでいく主人公たちを見て、あぁあの頃の私もきっとこんなだったなとノスタルジックな気持ちになった。毎日を忙しく過ごして何のために生きてるんだ?と思っている大人や、将来に不安を抱いて本当にこれでいいんだろうかと悩んでいる学生にぜひ読んでほしいと思う。自分の知らない世界がまだまだ沢山あることや、あの頃の煌めきを思い出させてくれるだろう。そして、それが八虎のようにこれからを突き進むための力になればと思う。