年を重ねるたびに若返る男の生涯
デヴィッド・フィンチャー監督が『グレート・ギャツビー』で知られるF・スコット・フィッツジェラルドの短編を映画化した2000年代の名作です。
醜い姿で生まれたベンジャミンは養老院の看護師クイニーのもとで育ちます。彼は成長するごとに若返っていくのですが、それゆえに多くの別れを経験しなければなりませんでした。運命の人デイジーとの恋愛を軸に一人の男の数奇な人生を描いた傑作です。
デヴィッド・フィンチャー監督は『セブン』や『ファイト・クラブ』といった暗い作風が特徴ですが、本作では感動のドラマを元の作風を残しつつ、極めて重厚に描いています。ベンジャミンは姿形は若返っても、内面はほかの人と同じように年を取るのです。そのような難しい役どころをブラッド・ピットは見事に演じています。特殊メイクで70代を演じている場面では、のんびりとした仕草で若々しく、素顔では老人を演じているのです。ケイト・ブランシェットやティルダ・スウィントンの助演も作品に花を添えています。ここまで素晴らしい演技の後に、80代のベンジャミンを演じた子役はさぞ荷が重かったのではないでしょうか。
因みに本作は老いたデイジーによる回想という形式で物語が進行しますが、その構成で初めて作られた作品は『市民ケーン』。オーソン・ウェルズの傑作です。この作品はフィンチャー監督に多大な影響を与え、2022年には『市民ケーン』の脚本家の人生を描いた『マンク』を撮っています。