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なんという臨場感
話のあらすじを言えば、「伝令を他の部隊に届けるために戦地を走る」だけですが、それがこんなにもドラマチックなものだとは、映画を見るまで思っていませんでした。主人公の視点を追い続ける、ほぼワンカット映像の迫力は、想像を絶するものがあります。映画なのに、戦地の地や土や埃といった生々しい香りまで感じられそうなくらい、戦争の悲惨さや過酷さが伝わってきます。
この映画の主人公は、ほとんど素性がわかりません。若いことや下っ端であること……それ以外はほぼ情報がないと言ってもいいてしょう。しかし、彼をこんなに応援したくなるのは、伝令がたくさんの人の命を救うものであること以上に、主人公の命がけの状況が、ほぼワンカットの映像で伝わってくるからだと感じました。
やけに劇的な戦争映画とは違い、リアルな戦場を感じさせる描写が多いこと。例えば、特徴的な遺体を目印にして進んだり、ぬかるみの中の突起物で手を怪我してしまったり。そうした「不快感」が目を逸らしたくなるほどリアルに描写されているから、この作品を見たという行為そのものが、これほどまでに強く心に残るのです。演者の緊張感ある芝居も、そのリアルさに大貢献しています。どの要素を取っても、素晴らしい作品です。