新宿スワン / Shinjuku Swan

新宿スワン / Shinjuku Swan

『新宿スワン』はアンダーグラウンド系の日本の漫画である。作者は和久井健。講談社『週刊ヤングマガジン』で、2005年20号から2013年45号まで連載された。スカウトマンをテーマにした物語で、和久井にとって連載のデビュー作品となった。主人公は19歳の白鳥龍彦、通称タツヒコ。ライバルの死や暴力団がからむ違法薬物の取引、そして信頼していた仲間の裏切り、そして、タツヒコの知らないところで大きな復讐の計画が動き出していた。数々のトラブルに見舞われながらも逃げずに立ち向かうタツヒコの成長する姿を描く。

Erika55a2のレビュー・評価・感想

新宿スワン / Shinjuku Swan
10

時代と運命を描いた傑作

『新宿スワン』は、2005年から2013年まで、週刊ヤングマガジンで連載されていた青年漫画です。2007年にはドラマ化もされており、園子温監督、綾野剛主演での映画化はとても話題になりました。映画は2作とも素晴らしく、連載当初からの原作漫画ファンだった僕にとっても、大変満足のいくものだったのですが、ここでは原作漫画を中心にレビューしたいと思います。
『新宿スワン』は、歌舞伎町を舞台として(途中、渋谷・大阪・北海道・香港などに舞台を移し、それもまた魅力的なのですが、基本は新宿中心です)、主人公・白鳥龍彦(名前を見れば分かる通り、彼が新宿に咲くスワンの「1人」です)が、スカウトマンとして成長していく青年譚です。登場する男女は皆、今時珍しく感じてしまうほどのアウトローばかり。その中で、龍彦が様々な人たちと関わり、世代を超えた宿命的な戦いに巻き込まれていくわけです(というか、自ら巻き込まれに走ります)。
物語は、前後半で大きく2つに分けることができて、前半は、主人公の龍彦がスカウトマンとして成長していくストーリーです。キャバクラ、風俗、AV。前半も十分に面白いのですが、前半のストーリーを伏線として、後半、物語は一気に加速します。主人公は龍彦ですが、裏の主人公というべきは、彼にスカウトのイロハを叩き込んだ、龍彦の命の恩人、真虎。映画では伊勢谷友介が演じていました。そして、真虎にも、スカウトのイロハを教えた人間がいました。彼の名は辰巳幸四郎。映画では出てきませんでしたが、物語の全ての中心となる存在です。龍、虎、辰が交差し、ヤクザを巻き込んだ復讐劇(というより、ヤクザが中心かもしれません)が、歌舞伎町と香港、国境を跨いで展開されていきます。
時代背景は2000年前後から始まって、2004年の歌舞伎町浄化作戦あたりまでなのですが(途中、90年代にも物語はおよび、そこに全ての根がありました)、スカウトであろうが、水商売の女性たちであろうが、それこそヤクザであろうが、全てこの歌舞伎町浄化作戦を主導する国家権力に翻弄されるわけです。社会がより清潔で、住みやすいように「浄化」されていくその裏で、運命に翻弄される数人の男女がいたのです。死んでいった者、生き残った者。ワイルドでありながら、ノスタルジックな気持ちにもさせられる、そんな両極端な傑作です。ぜひ読んでいただきたいです。