不思議な魅力を持つ、井上陽水へのあこがれ。
井上陽水という人はフォークシンガー、あるいはシンガーソングライターとして捉えられていることが多い。また、一歌手として、あるいは他の女性シンガーへの楽曲提供をしている存在と認識されている場合もあるだろう。詩人とみる向きもあるだろうし、たまにタモリの番組などにゲストで出てくる不思議なおじさんという側面もある。ただそのすべての側面だけではとらえきれない、というより、本人がそういったカテゴライズを避けているように見える、稀有な存在である。インタビュー番組でもなかなか本音を明かさない。
そういった「柳に風」といったニュアンスでありながら、歌を歌った瞬間に、周りの空気を一気に変えることができ、歌手としての実力は非常に高い。
歌っている内容は摩訶不思議。意味があるようにも聞こえるし、そんな意味を見出されては迷惑だ、と言わんばかりに、本音を隠しうそぶいているようにも聞こえる。
井上陽水の魅力は、すべてを説明しきらないところではないかと思う。どんなに努力して言葉を紡ごうが、伝わらないものは伝わらない。そんな諦観からくるのか、音と音の間に横たわる余韻の部分を感じさせることで、聞いている側が「これはいったいどういうことを歌っているのだろう」と解釈させる。
この、解釈を聞き手にゆだねて決めつけないところ。自由を感じさせるところ。
ここに人々が井上陽水にあこがれつづける所以があると思うのだ。