方向転換する以前の初期の作品に惹かれた
シングル「幸福論」をリリースした98年のデビューから、99年のファーストアルバム『無罪モラトリアム』を経て、2000年のセカンドアルバム『勝訴ストリップ』で完成し、一度頂点を迎えた音楽観を手放してしまったことが、非常にもったいないなと思います。
2001年のシングル「真夜中は純潔」を聴いたとき、あれ?と思いました。
そっちの方向に行っちゃうのかと。
2003年のサードアルバム『加爾基 精液 栗ノ花』を聴いてもやはり、別の方向性に転換したような印象を受けました。
もともと、椎名林檎は自身のありのままを曲で表現するタイプではなく、思い描くイメージや、意図的な設定を形にしていくクリエイタータイプだということを聞いたことがあります。
初期の作品に見られたロック魂が見られなくなった代わりに、方向転換して以降は、よりクリエイター魂を炸裂させているのかもしれません。
とは言え、やけに大人になってしまった音楽に寂しさを感じることは確か。
絶望の中で信じられるものを渇望していた、あの頃のような椎名林檎はもう見られないのでしょうか。
『勝訴ストリップ』からのシングル曲、「ギブス」。
日本の女性アーティストによるバラードとして、これ以上に感銘を受けた曲はありません。
ミュージックビデオを含めて、ひとつの作品として素晴らしい出来でした。
椎名林檎の美しさも格別なものだったと思います。
しかし、サウンドや歌詞の表現には、少し拙さがあったように感じます。
だからこそ、この路線で成長していってほしかった。
様々なアーティストが自分の音楽性を広げていき、一周回って原点に戻ってくるということがあります。
椎名林檎にも、その可能性がないとは言いきれません。
いつかまた、初期のような作品が作られることを望みます。