美しくてせつなくて最後に微笑むことのできる、大人のためのおとぎ話
18世紀のフランスで書かれた小説が原作です。同名で有名なアニメ映画やミュージカルなどがありますが、この作品は原作小説を元にフランスで撮られた、言わば「本家本元」と言うことができます。
ある富豪の商人一家は突然の嵐により船を失い、家財道具も家も取り上げられ田舎へ移ってきます。慣れない田舎暮らしの中で、末娘のベルだけは家族一緒に暮らせることが楽しくて、生き生きと畑仕事や家事に精を出します。そこへ「船が一隻発見された」と知らせがはいり、父親は喜ぶ家族に希望のお土産を聞いてから港に行きますが、戻ってきた船の財産もすべて返済にあてられてしまい、結局一文無しで追い出されてしまいます。その帰り道吹雪の中で森をさまよい、不思議な古城に迷い込みます。
城の中には誰もいませんでしたが、豪華な食事や頼まれていたお土産と同じ内容の品が見つかり、商人はそれを持って去ろうとします。その時に美しい赤いバラが目に入り、ベルの希望した「バラが欲しい」という言葉を思い、その花を一輪摘んでしまいます。ところがその途端に野獣が飛びかかり、「バラを盗んだのだから命を差し出せ」と言われて、約束を守らなければ家族を殺すと脅されます。
家に帰ってきた商人は子供たちにその話をしますが、ベルは翌朝たった一人で父親の代わりに野獣の城へ向かいます。てっきり殺されると覚悟していたベルですが、野獣はディナーを共にすることを求めるだけ。目が覚めれば美しい豪華なドレスが用意されていました。野獣の態度に困惑するベルですが、夜になると奇妙な夢をみます。
夢の中では古城は壮麗な姿で、たくさんの人がいます。そして、金髪のプリンセスと王子の恋が語られます。目覚めたベルが広い庭で見つけたのはこの夢のプリンセスの石像でした。この作品では、古城はたくさんのバラが茂り部屋の中にまではいりこんでいます。物悲しいうち捨てられたような城の中でベルがまとう美しいドレスだけがとても鮮明で目にとびこんできます。見ているほうは野獣の正体にすぐ気づきますが、彼がそうなった出来事のシーンでは「愛を知りたかったの」というプリンセスの純粋な想いがとてもせつないです。そして、バラの化身となっても愛する人を救いたいと、野獣に興味を持ったベルを夢の中で導いていきます。白いドレスを着た無垢な少女ベルが、野獣への愛を自覚したのちは燃えるような赤いドレスの大人の女性と変化していく様子が、何気ない目線やしぐさで、描かれています。お話の最後で、バラ飾りのついた可愛らしいピンクのドレスを着たベルと、すっかり良き夫となった野獣が住んでいるのは、城に咲いていた色とりどりのバラを栽培している最初にでてきた田舎家でした。傲慢で不遜な印象があった野獣が、プリンセスの赤いバラを育み、お花屋さんになっているというのがとても素敵です。
映画全体を通して会話はあまりなく、どちらかというと色彩や表情、しぐさなどで二人の想いが変化していく様子を描写しています。それらを感じ取ることのできる大人のための童話という印象でした。