「光の魔術師」?平沢下戸氏の光の表現
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週刊新潮に連載されていた小説『村上海賊の娘』のイラストを手掛けておられた平沢下戸氏。モノクロ画でも「光」というものを感じさせる爽やかな絵柄で、ともすれば重くなりがちな戦国時代の展開を和らげていたように思います。そんな平沢氏の絵の魅力とは…?
平沢下戸プロフィール
イラストレーターで、同人作家。小説の挿絵、装画を手掛けている模様。
出典: ja.wikipedia.org
skywheel.fool.jp
ご本人のHPです。
特徴
少なくとも、絵柄そのものには「個性」というものを感じません。見ようによっては雑にも映ります。じゃあ、この人の「強み」とは?恐らくそれは、「光の表現」ではないかと。個人的に初めてこの人を知ったのがこの『村上海賊の娘』の挿絵です。「スクリーントーン多いな」と思いましたが…。
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ホワイトとトーンのみで光と影の明暗を描き分けていたことに気づき、感心しました。どこかに「光源」が描かれており、時には「光源」がなくとも、それがどこにあるか、素人目にも分かる。時に登場人物の心情や、その場の雰囲気さえ、ホワイトで縁取った「光と影」で表していたように思います。時に、それは緩和剤となり、それでいて物語の邪魔にはならない。
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何よりも、この人の絵には何とも言えない「爽快感」があります。クールな絵、重苦しい絵にさえ、どこか爽やかさがあるのです。それも絶妙なる「光」のしわざなのです。
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一見雑に見える線でさえ、「光の表現」の為なのではないか?と思わせるほどで、よく見ると線が繋がっていないことも。
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べた塗りのカラー絵でさえ、明暗を描き分ける手腕。ちまちまと影をつけるような真似をしないことだってあります。ベッタリと塗られているのに、厚ぼったい感じはなく、むしろ爽やかなのです。そこにはやはり、色と光の緻密な計算が感じられます。天然でやっているとしたら(そんなことはないでしょうが)、相当のセンスかと。
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何だか夏を感じます、この人の絵。水というか、「青」が似合う感じ。しかし最大の特徴はやはり「光」ですね。
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時に強い光でメリハリをつけ、同時に人物を印象付けます。
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光を巧みに使って、場面を演出。どういった場面がちゃんと伝わります。
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たくさん人がいたって鬱陶しくありません。柔らかい光がどこかにあって、絵を引き締めつつも和らげてもいる。強い光であっても絵を強調させる一種の小道具となる。何だかこの人の絵を見てると、そんな気分になります。主役は人。光は準主役。無論、光があれば影も生まれますが、それだって立派な準主役です。「光の魔術師」、そんな言葉さえ浮かびました。それも、柔らかく暖かい印象を持った光です。