ミッフィーの生みの親 ディック・ブルーナ
「ミッフィー」のキャラクター名でおなじみの『ちいさなうさこちゃん』。
絵本の読者・子どもだけでなく、グラフィックやアートの分野で活躍する大人たちにもたくさんのファンがいます。イラストをじっくり見れば、手描きならではのぬくもりが伝わるし、お話を読みこむと、人間の真価を問うような物語であることに気づきます。
まずは、『ブルーナの0歳からの本』
『ブルーナの0歳からの本7 うちのなかのもの』
絵:ディック=ブルーナ
発行所:講談社
書店の赤ちゃんコーナーには、ブルーナが手がけた絵本がたくさん並んでいます。ブルーナカラーと呼ばれる6色で彩られた、小さな正方形の絵本たち。
そのなかでも0歳児を対象にしたボートブックがあるのです。赤ちゃんが口に入れても、手でつよくにぎっても破れない厚めの紙が材料で、なおかつ、じゃばら折りになっています。
『うちのなかのもの』は、表紙にアナログ時計、ページをめくるとベッドやコップなど赤ちゃんの身近にあるものが登場します。家のなかで過ごす時間が長い0歳児は、ママとこの絵本をめくりながら、そのものの言葉と使い方を覚えていくのでしょう。
うちの本棚にも全4集がそろっていますが、購入時に付いてきた収納箱は子どもが0歳のときにあっさりと壊されてしまいました。けれど、このボートブックは1冊も破損することなく、子どもが成長した今でも本棚に挿されています。
ときたま、下の子が8冊分のじゃばらを組み合わせて、部屋の仕切りを作ってみたり、トランプピラミッドのように上へ上へと重ねたりして遊んでいます。幼児になっても、ボートブックの長所に工夫を加えて、本人なりの楽しみを見出しているようです。
ブルーナの真骨頂は「リズム」「物語」
『うさこちゃんシリーズ』を手にとると、どうしても愛くるしい顔立ちやブルーナカラーに彩られた服と背景に目を奪われがちです。潔いほどシンプルな線と色、そして表情。「絵」に惹きつけられてしまう理由はいくらでもあります。
けれど、絵本を一読すると、物語の奥行の深さに驚かされます。
『うさこちゃんときゃらめる』は、お母さんと買い物中のうさこちゃんが、お店にもお母さんにもだまって、自分のポケットにキャラメルを入れてしまうお話です。ストーリーそのものが衝撃的で、家に帰ったうさこちゃんは自分がした悪い行いによって、苦しい気持ちに苛まれます。
そのばん うさこちゃんは べっどに
はいっても ねむれませんでした。
なぜだか わかるでしょう?
だまって おみせのものを とるなんて
とても とても いけないことだからです。
―本文より引用
わたしにも経験があります。友だちの家から、キラキラ輝く星砂がはいった小瓶をだまって持ち帰ってしまったのです。
悪いと知りながら、なぜポケットに入れてしまったのか。母に打ち明けたことも、持ち主に謝りに行ったことも、すべてがうさこちゃんと同じ流れでした。
ディック・ブルーナは、子どもが持つ「明」と「暗」の両方を描きだし、それぞれを簡潔な物語に構築する力があります。それらを翻訳した石井桃子と松岡享子の功績は素晴らしいの一言に尽きます。両者とも児童文学を志す人間なら、知っていて当然の著名人です。
ブルーナが紡ぎだすオランダ語を読めれば最高ですが、日本で出版される『うさこちゃんシリーズ』も十分に堪能できます。
ブルーナ特集をピックアップ
今年5月号の『月刊モエ』は、世界一愛される絵本としてディック・ブルーナ特集が組まれました。内容は全国数か所で開催された「ミッフィー展」の宣伝を兼ねているようですが、来場できなかった人にも楽しめる構成になっています。
日本のクリエイターが描きおろした「おめでとうミッフィー」では、作家の個性が光る作品がずらりと登場。私的にはデザインスタジオ・groovisionsが制作した「ちゃんちゃんこ&ダイアモンドのミッフィー」に一票入れたくなりました。
また、2012年12月発売の『こどもMOE』では、「子どもに贈る絵本100」と題して、ミッフィーを巻頭特集しています。こちらは未就学児の親が読者層なので、そのような目線で記事が書かれています。
『うさこちゃんシリーズ』のことを「心地よい言葉の魔法」「信じられる世界」と紹介していることからも、幼い子に寄り添う絵本としてぴったりなのだということがわかります。
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