エンタメ?純文学?魅惑の作家、山田詠美の作品2選~子供たちの青春編~
山田詠美は現代を代表する日本の女性作家。 1985年のデビュー以来、精力的に作品を発表し続け直木賞など数々の賞を受賞。 彼女の作品には大きく分けて二つの系統がある。大人の性愛を正面から描いたものと、思春期の子どもたちの瑞々しさを描いたものだ。 今回の記事では、後者の作品を紹介していく。
『ぼくは勉強ができない』
<あらすじ>
高校生の時田秀美は女の子にモテモテで、年上の彼女もいる。
勉強以外に大事なことはある――そう言ってはばからない時田秀美は先生に対しても同級生に対しても鋭い洞察力で率直に意見してしまうため、良くも悪くも周りは翻弄されてしまう。
そんな時田秀美が送る学校生活が描かれている。
<読みどころ>
高校生の瑞々しさや爽やかさが丁寧に描写されている。しかしこの作品は、よくある青春小説とは一線を画している。
行事に向けてクラスのみんなと一致団結したり、部活に励むようなことはない。そういう側面は他の作家に任せて、山田詠美は鋭く高校生の感性を中心に捉えている。
主人公である時田秀美は、高校生という子どものような「プレ大人」の視点でクラスメイトを観察したり、家族に相談したり、教師に疑問を投げかけたりする。でもけっして人を馬鹿にしているわけではないのだ。
女性読者は思わず「秀美くん」と言ってしまうような、時田秀美のキュートさも『ぼくは勉強ができない』の魅力だ。
『放課後の音符』
<あらすじ>
大人と子どもの中間である17歳という年齢を持て余す、少女あるいはレディーの恋愛小説。
短編小説から成立しており、登場人物はほとんど毎回異なる。
<読みどころ>
『ぼくは勉強ができない』と同年代でありながら、今度は女の子たちが主人公というところがひとつのポイント。
一般的に女の子の方が早熟と言われ、それゆえに彼女たちは大人の女性に強く憧れを抱くが、具体的にどうしていいかわからない。もどかしいこの気持ちは経験したことのある方も多いのではないだろうか。
そういったデリケートな心象をおしゃれなエピソード(たとえば、恋人に書く手紙の便箋がなぜシンプルなものなのか聞くと「書くことが情熱的だから」という返答が返ってきたり、タバコの吸殻を宝石箱に落としたりするなど)を交えて、見事に描いている。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
山田詠美さんは大人の性愛も書きますが、大人と子どもが微妙に入り混じった素敵な小説も書いているのです。
「自分もそういえばこんなこと感じてたっけ…」と共感できることも多いと思います。
今回扱った作品は文庫本が出ていますので、お気軽に手にとって読んでみることをおすすめします!