うちの師匠はしっぽがない(しっぽな)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『うちの師匠はしっぽがない』とは、落語家を目指す化け狸の少女の奮闘と成長を描いた、TNSKによる漫画作品。『good!アフタヌーン』にて2019年から連載され、2022年にはアニメ化を果たしている。
大正時代。父のように術で人間を驚かせることを夢見る化け狸のまめだは、初めて出向いた大阪の街でその夢を果たそうとするも失敗。しかしこの時、大黒亭文狐という落語家の寄席を見てその話術に感動し、自分も落語家になると決意する。文狐の押しかけ弟子となったまめだは、様々な人と出会いながら成長していく。

『うちの師匠はしっぽがない』の概要

『うちの師匠はしっぽがない』とは、落語家を目指す化け狸の少女の奮闘と成長を描いた、TNSKによる漫画作品。相性は「しっぽな」。
『good!アフタヌーン』にて2019年から連載されて好評を博し、2022年にはアニメ化を果たしている。

大正時代。父のように術で人間を驚かせることを夢見る化け狸のまめだは、初めて出向いた大阪の街でその夢を果たそうとするも失敗。人間たちに追い回された末、たまたま逃げ込んだ寄席で大黒亭文狐(だいこくてい ぶんこ)という化け狐と出会い、彼女の落語家を聞いて感動する。
言葉だけで人間を“化かす”落語に魅せられたまめだは、自分も落語家になることを決意して文狐の押しかけ弟子となる。時に人と化け狸の違いに悩み、時に修行の中で出会った仲間との友情を育み、まめだは落語家として成長していく。

『うちの師匠はしっぽがない』のあらすじ・ストーリー

化け狸と落語家

父のように化け術で人を驚かせることを夢見る化け狸のまめだは、初めて出向いた大阪の街で、自慢の化け術を人間たち相手に披露する。しかし文明開化に慣れ親しんだ大正時代の人間たちには、まめだ程度の化け術は取り立てて驚くほどのものでもなく、あっさり見破られた上に「イタズラ狸を捕まえろ」と追い立てられることとなる。
慌てて逃げ出した先で、まめだは偶然寄席の客席に紛れ込み、そこで大黒亭文狐(だいこくてい ぶんこ)という女落語家の落語を聞く。聞いているだけで実際の光景が浮かぶような、その中に自分までもがいるような圧倒的な話術に、まめだは“言葉だけで化かされた”と驚愕。自身も落語の世界に興味を持つ。

文狐もまた人ではなく、その正体は高位の化け狐だった。まめだの正体をあっさりと看破した文狐は、彼女を保護して故郷に帰るよう諭す。完全に人間として生活している化け狐がいることを不思議に思ったまめだがその理由を問うと、文狐は「人の文明はやがて自分たち妖怪の居場所を奪うだろう。だがそれでも“誰かを化かしたい”という気持ちが自分たちの中にはあり、人間もまた“化かされたい”という気持ちがある。だからみんな自分の寄席に来てくれるのだ」と語る。そんな人間と妖怪の新たな絆がここにあるなら、自分が落語を続けることにもきっと意味がある。それが彼女が人間の落語家として生きる道を選んだ理由だった。
言葉1つで客を騙す落語の世界で、人と妖怪の新しい関係を作ろうとしている文狐に感動したまめだは、「文狐の弟子になって自分も落語家になる」ことを決意する。

黒駒一家の家出娘

まめだが相応の決意を持って押しかけてきたことを理解した文狐は、甘い世界ではないと釘を刺しつつ、彼女の弟子入りを認める。修業を兼ねて寄席で働き始めたまめだは、そこで椿しらら(つばき しらら)という少女と出会う。しららは人間に化けたまめだと同世代の若い落語家だが、すでに前座を務めるだけの力量を持っていた。
精神年齢が近いこともあって反目する2人だったが、どちらも根が単純で明るくて親切と気質が良く似ていたこともあり、次第に友人となっていく。しかしそのしららは、実は東京の黒駒一家というヤクザの娘で、「落語家になりたい」という夢をどうしても諦められずに家で同然で上方落語の世界に飛び込んだという事情を抱えていた。

東京から乗り込んできた黒駒一家の若頭が、むりやりにでも連れ戻そうとしららを拉致。これに慌てふためいたまめだは、しららを助けようと黒駒一家の関西支部に押し掛ける。「しららを返してくれるまでは絶対に帰らない」と抵抗するまめだを、黒駒一家のヤクザたちがむりやりにでも追い払おうとした時、弟子の窮地を見て取った文狐が駆け付け、「自分の落語で笑ったら、木戸銭としてしららは返してもらう」と宣言する。彼女の胆力と、女の話を聞いて笑わないというだけのことに耐えられないのかとの挑発に乗せられ、若頭は文狐の提案を受け入れる。
文狐が披露したのは、嫌われ者のヤクザの葬式代を集めようとする「らくだ」という演目だった。その中で幼い頃にしららに救われた過去を思い出してしまった若頭は一瞬相好を崩し、これを文狐に指摘されて渋々負けを認める。かくしてまめだと文狐は、無事にしららを助け出して黒駒一家の関西支部を後にするのだった。

芸道は七転び八起き

一生懸命に修行を重ねたまめだの落語も十分に上手くなり、彼女はいよいよ前座としてデビューすることとなる。ついに自分の力を見せる時が来たと喜ぶまめだだったが、落語家としてのデビューが近づくに従い「うまくやれるだろうか」と不安になっていく。
「怖い人の前で練習すれば慣れるのではないか」と考えたまめだは、黒駒一家の関西支部を訪れ、若頭に落語を聞いてほしいと頼み込む。まめだから「世話になった人たちはもちろん、しららにも迷惑をかけたくない」と言われた若頭は、渋々ながらまめだの落語に付き合う。やがてまめだが極度に緊張していることを見て取った若頭は、「自分を信じることもできないのか。自分を信じられないってことは、自分を育ててくれたヤツのことも信じられないということだ」と指摘する。

自分はともかく、師匠のことは信じられる。そう思い直したまめだは、若頭から教えてもらった教訓を胸に、前座として客前に出る当日を迎える。落語聞きたさに逃げ出した天神様を追うことになったりとトラブルとアクシデントを乗り越えた後、まめだは客の前で一席を披露する。
客の評判は決して悪いものではなかったが、まめだは自分の落語にまったく納得できず、「何度も何度も練習したのに、全然うまくできなかった」と悔し涙を流す。文狐はそれを見て、誰でも最初はそのようなものだとまめだを励ますのだった。

椿の帰還

しららの師匠で、軍人と揉めて投獄されていた椿白團治(つばき びゃくだんじ)が釈放される。しららは「ろくでなしが戻ってきた」と渋い顔をする一方で師である椿との再会を喜び、まめだはまめだで彼の落語を聞いて「文狐とはまた違う奥深さがある」と感心する。
しかし椿は方々に大量の借金を残したまま牢に入れられており、金を返せと何人もの債権者が寄席に押しかける。取り立て屋を担当する黒駒組の若頭によって椿がタコ部屋へと連れ去られそうになるのを見たまめだは、しららが椿との再会を喜んでいたのを思い出し、思わず「私が借金を返す」と言ってしまう。

落語の世界では、弟子の不始末は師匠の責任である。面倒なことに巻き込まれたと呆れる文狐だったが、若頭に「椿に借金を返させるなら、タコ部屋に入れるより寄席で稼がせた方がいい」と提案する。
「それでダメなら師弟もろともタダじゃおかない」と息巻く若頭だったが、果たして椿の借金返済公演は大成功。無事に溜まっていた借金を返済し、しららたち自分を待つ弟子の下へと帰るのだった。

大黒亭の試練

ある日、まめだは唐突に文狐から破門を申し渡される。納得できないまめだは、「椿なら何か知っているのではないか」と考え、彼の屋敷へと向かう。椿は文狐の真意についてははぐらかしつつ、行くところがないならウチにいるといいとまめだに勧める。
しららと2人で椿一門の面々の家事をこなしつつ、落語家としての修行も続けるまめだだったが、ある時椿から「文狐のところを破門されたのなら、自分の一門に入らないか」と誘われる。まめだはその誘いをありがたいことだとしつつも、「自分が惚れ込んだのは文狐の芸である」として、あくまで彼女の下で落語を学んでいきたいと椿に答える。

これを聞いた椿は笑い出し、まめだに合格だと告げる。実は先日、上方落語四天王と呼ばれる文狐、椿、さらに霧の圓紫(きりのえんし)と恵比寿家歌緑(えびすや うたろく)が一堂に会し、文狐が弟子を取ったことについて糾弾する場が設けられたというのだ。文狐は自分の師匠から「決して弟子を取るな」と言いつけられていたらしく、彼女がそれを破ったことは問題だというのがその言い分だった。
中立の立場でここに参加した椿は、「文狐も相応の覚悟があったのだろうし、師との約束を破ってでも弟子に取るほどの価値がまめだにあるかどうか試してみよう」と提案。文狐が「この中の誰か1人でもまめだにその価値無しと判断したのなら、大黒亭の看板を下ろす」と宣言したことで、糾弾する側だった圓紫もいったん引き下がる。

次はその圓紫のところで文狐の弟子としての価値があるところを見せてこいと椿に言われ、まめだは再び文狐に弟子にしてもらうために気合を入れ直す。

嫉妬と約束

上方落語四天王が1人、霧の圓紫の下に向かったまめだは、彼女から「1週間で自分の“寿限無”を修得してみせろ」との試練を押し付けられる。圓紫の完全に計算された落語に感銘を受けたまめだは、死に物狂いでこれをマスターし、なんとか試練を突破する。圓紫はまめだの努力を賞賛しつつ、自身が文狐のことを認められない理由について語り始める。
裕福な家の令嬢だった圓紫は、先代の大黒亭である文鳥の話術に惚れ込み、「自分だけの力で生きる」ことに憧れて落語の世界に飛び込んだ。しかし文鳥は「俺は弟子を取らない」と常々言い張っており、その言葉の通り息子の椿にも大黒亭を継がせず、圓紫には他の一門に入るよう勧める有様だった。

文鳥の弟子になることを夢見ていた圓紫だったがついには諦め、霧一門を継ぐこととなるが、そうなってから文鳥がどこかから連れてきたのが文狐だった。自分が憧れ続けた文鳥の弟子の座に収まった文狐が受け入れられなかった圓紫は、せめて「お前は弟子を取るな」という文鳥の遺言だけは文狐に守らせようとしていたのだ。
なぜ文鳥がそこまで弟子を取ることに否定的だったのかまでは圓紫も知らなかったが、試練の突破は試練の突破として認め、彼女はまめだに恵比寿家歌禄の下に向かうよう伝える。

文狐の過去

まめだが文狐の弟子になるよりいくらか前のこと。常日頃から「弟子は取らない」と語っていた先代大黒亭こと文鳥が、どこからか陰気な雰囲気の娘を連れてきて、落語家仲間たちの前で「コイツを弟子にする」と言い出す。彼女こそは後の文狐にして、小さな稲荷神社に祭られていた妖狐だった。
当時の文狐は、文明開化の勢いで古い信仰や文化を打ち捨てていく人間のことを憎んでいた。「邪魔だ」というだけの理由で社が壊されそうになり、これに抵抗して傷を負い倒れていた文狐を見つけた文鳥は、どういうわけか彼女を気に入って弟子になるよう誘ったのだ。

当初は傷を癒すための一時的な隠れ家として落語家の弟子の立場を利用しようとしていた文狐だったが、文鳥もまた人間の身勝手な気質を腹の底から憎んでいることを知って共感し、同時に彼の巧みな落語の中に“失われた古き良き日本の姿”を垣間見て離れがたくなっていく。やがて自分が愛した人間の善良な側面が消えてしまったわけではないこと、新しい文明も悪いものばかりではないことを知り、気付けば文狐は落語家として一人前になっていた。
この頃には文鳥は病に倒れ、余命いくばくも無い状態になっていた。見失っていたものに気付かせてくれた恩返しのつもりで彼の名と落語を継いだ文狐だったが、文鳥は「自分の技はお前が終わらせてくれ」と言い残して息を引き取る。なぜ文鳥が自分に落語を教えたのか、なぜそれを終わらせるよう命じたのか、文狐は日々悩みながらも大黒亭の名を継ぐ落語家として活躍していくのだった。

最後の試練と師弟の絆

まめだの試験も、残すは恵比寿家歌縁から合格をもらうのみとなる。しかし歌禄はまめだの落語を「おもしろい」とは評価しつつ、「君がおもしろくちゃ意味がない」と言って失格だと断定。納得できないまめだは、なんとかもう一度チャンスをもらおうと遊郭に引っ込んでしまった歌禄を追いかける。
このままおめおめと帰るわけにもいかないと考えたまめだは、遊郭で雑用係として働かせてもらいながら歌禄に果たし状を送り続ける。そんなある日、御大尽に座敷に招かれたまめだは、落語を一席聞かせてほしいと頼まれる。

実はこの御大尽、かつて文狐の師である文鳥と揉めたことがあり、落語家に恨みを抱いていた。騒がしい座敷の中で落語を披露するも誰にも聞いてもらえず、まめだは困惑。そこに歌禄が現れ、見ちゃいられないと彼女の代理を務める。歌禄の落語は見事なもので、彼の中に“別の人間が何人もいる”かのようなその話術に、まめだも思わず引き込まれる。
「個人の生み出す面白さには限界がある。いろいろな人間に触れて、その人格を模倣し、芸に取り込んで昇華しなければ一人前とは言えない」というのが歌禄のモットーで、あくまで個人のおもしろさに頼ったまめだの落語を否定した理由だった。それを理解したまめだは、歌禄から「1週間後に再試験だ」と告げられて、人間観察のために町へと繰り出していく。一方、歌禄に一杯食わされた御大尽は、何やら怪しい動きを見せていた。

御大尽こと平兵衛は、大黒亭一門にコケにされ続けた恨みを晴らすべく、言葉巧みにまめだを自分の屋敷に招いた上で「土産だ」と言って風呂敷を渡す。その中身は、かつて文狐から「文鳥に殴られた慰謝料」としてせしめた大金だった。
そうとは知らずにこれを受け取ってしまったまめだは、「落語家の小娘に金を盗まれた」という平兵衛の訴えを信じた警官隊に追われることとなる。しららや寄席の仲間が総出で彼女を守る中、文狐が巧みな話術で平兵衛から「“まめだに金を盗まれた”という証拠はない」との言葉を引き出し、さらに平兵衛の用意した大金を木の葉に変えてしまったことで形勢逆転。もともとこの金は、文狐が平兵衛を騙すために木の葉から作り出したものだったのだ。

尻尾を巻いて逃げ出す平兵衛と警官隊を見送りつつ、まめだは迷惑をかけたことを文狐や仲間たちに詫びる。文狐は「手間のかかる弟子だ」とは言いつつ、まめだの無事を喜ぶ。今さらながらに「試験に合格する前に師匠に会ってしまった」と慌てるまめだだったが、文狐は自分と文鳥の関係について改めて彼女に語り、合格をもらって帰ってくるのを待っている旨を伝える。この時ようやく、文狐は文鳥が言っていた「自分の芸はお前でおしまいにしろ」という言葉が、「憎しみを根幹とする芸ではなく、誰もが幸せになれる新しい芸を作ってくれ」という意味だったことに気付いて涙する。
そしてやってきた再試験の日、歌禄の下には椿や圓紫の姿もあった。なんだかんだで3人ともまめだの明るさと落語への情熱には期待しており、「合格してもらわないと困る」と話し合う。彼らが待つ試験会場に向けて、まめだは今日も元気いっぱいに街を駆けていくのだった。

『うちの師匠はしっぽがない』の登場人物・キャラクター

大黒亭まめだ(だいこくてい まめだ)

CV:M・A・O

淡路島で暮らしていた化け狸。大正時代という近代文明花開いた時代にあってなお術で人を化かしている父に憧れ、大阪の街で自分も人を化かそうとするも失敗。しかしそこで出会った文狐の“人を化かす”ほどの落語の話術に魅入られ、その弟子となって自身も落語家になることを新たな夢とする。
当初は「まめだ」とだけ名乗っていたが、紆余曲折の末に弟子入りを認められた後は文狐から「大黒亭」の名を与えられる。

大黒亭文狐(だいこくてい ぶんこ)

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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