彼女の小説と言えば、多くが恋愛を描いたものとなっています。
美しく詩的な表現の数々が綺麗なものを好む女性たちの心をつかむのはもちろん、男性や思春期の子どもたちの涙腺もを刺激します。
「冷静と情熱のあいだ」では作家であり音楽家でもある辻仁成さんとのコラボレーションで、味わい深い恋愛小説を描き上げました。
しかし彼女は、昔からアダルトな雰囲気漂う小説を書き続けていたわけではありません。
お父さんの影響で本や文学に親しい生活をしていた幼い頃は、児童文学作家を目指していたそうです。
デビュー作となる「409ラドクリフ」でフェミナ賞を受賞するまでは、絵本・児童文学・詩などをメインに執筆していました。
江國さんの作品は長編、エッセイ、短編集など様々ですが、その中に特徴的な作品集である「すいかの匂い」という一冊があります。
どの作品も9歳前後の幼い少女が主人公となり、当時の記憶を思い返すように淡々と描かれています。
そこに描かれるのは……
・家出中偶然立ち入った空き家にて、結合双生児にであった記憶
・年上のお兄さんにナイフを突き立ててしまった記憶
・太った郵便配達員に、下着を見せてと頼まれた記憶
これらのように、江國さんの特徴である「恋愛」とは違ったストーリーが、特徴的な美しい文体で描かれることでどこか夢物語のようで、ファンタジーとさえ捉えられるストーリーに仕上がっていきます。
江國さんはかねてより「9歳」という年齢を重要なステージとして捉えているようです。
「9歳」は教育学上でも、自我の目覚めをはじめとする契機が起こり、心が揺れやすく、人格形成の上で重要な時期と言われています。
児童文学を書いていた経験が、彼女自身の「子ども」「9歳」の記憶をよりリアルに残しているからこそ、ただ綺麗なだけではなく残酷であったり、ダークな面をも抱えた作品に仕上がっていくのでしょう。
「美しい恋愛」を描く作家である江國さんの「子どもだからこその闇」を、作品の節々に探してみるのもいいかもしれませんね。