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暗黒に堕ちるまでが勇者たちの冒険。
「ソラニン」「おやすみプンプン」などで知られる漫画家・浅野いにおの連載作「勇者たち」。
仲間だったトン助が暗黒の王に体を乗っ取られ、トン助もろとも暗黒の王を封印したところからこの漫画は始まる。平和が訪れ、個性的な面々の勇者一行は自分たちの家への旅路に向かうのだが、故郷を失ったハエの王の今後について、勇者たちは押し付け合いのたらい回し。ハエの王の活躍がなければ平和は訪れることはなかったのに…。
勇者たちは話が進むにつれ、どんどん暗黒の王の支配下へ堕ちていきます。そしてタイムリープを繰り返すが如く暗黒の王を倒し平和が訪れめでたしめでたし。帰路の道中で新たに暗黒に堕ちる出来事が起き、また暗黒の王が復活してしまう。
ゲームや映画で慣れ親しんだ勇者のいるファンタジー世界で、ラスボスを倒されたら盛大なハッピーエンドが待っているセオリーを誰もが描いてしまうが、本当に勇者たちのいる世界は平和になるのでしょうか。
綺麗事と上辺だらけで行動を共にしていた関係性が崩れていく様と、この漫画の結末は現実的で衝撃的でした。平和と混沌のように、幸福と不幸のように、いつまでも交わらない極端さがとても痛々しい。浅野いにお作品の中でも風刺的な展開が際立った作品です。