キーチVS

キーチVSのレビュー・評価・感想

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キーチVS
10

カリスマキーチ幼少期を経て世界に牙を向ける

たくさんの愛情を受けながらも両親を通り魔殺人で失くす、ホームレスと共同生活、拉致監禁、森での野宿など、到底普通の精神では乗り越えられないような幼少期を経たキーチが国会に、政治家に、終いにはアメリカに牙をむき、社会から弾かれた人間の為に正義の断罪を下すという、とてもシリアスでヘヴィな内容になっている。
巨匠・新井英樹さんによる少し過剰なくらいに人間の剥き出しの欲を描いている。新興宗教団体の長になっている事から始まる1巻では、食肉偽装の闇について暴かれていくが話が進むにつれて徐々にアメリカが関わっていることがわかる。後半にはバリバリの共産左翼のセクトで共同生活を始め、一人の女性と次第に恋仲になっていく。だが、それを皮切りに狂い始めた歯車に拍車が掛かるかのように、ドンドン過激な方向へ導かれていく。最終的には戦争しかないのか。独裁しかありえないのか?キーチは経団連の長、アメリカ軍大佐などを続々と拉致し富士の樹海にあるセクトに監禁をし、ディールしようとしたが、アメリカによる強力な圧力によりセクトまるまる焼き払われ仲間の殆どを銃殺されてしまう。最後は責任をとるかのように一人で立ち向かい呆気なく抹殺される。仲間の二人が逃げ出し、そのうちの一人が身籠ったキーチの息子を育て始めるところで終わる。キーチの信念を継承させるように。
何が道徳的で倫理的か?何が正義か?そして世界はどーなっているのか?そんな現代の闇を描いた大作。