黒源氏物語

黒源氏物語のレビュー・評価・感想

New Review
黒源氏物語
9

美麗に描く、光源氏の妖しき闇絵巻

『源氏物語』をモチーフにした漫画作品は多々あります。恋の狩人ぶりに焦点を当てたもの、耽美的なものと枚挙にいとまがありません。
そんな中、『黒源氏物語』は異彩を放つ作品です。
主人公の光源氏は美男子で才能にも秀でた人物。あちこちの女性にふらふらと目や足が言ってしまうのが難点ですが、1000年経っても愛読されるのは、人の心にこうした「ドロドロとした人間関係」を望むものがあるからかもしれません。
そんな中現れたこの『黒源氏物語』、何が他作品と違うかと言えば光源氏の心情、心の闇にフォーカスを当てている点です。見た目にはため息の漏れる美貌で男性からも色目を使われるこの美少年は、親からの愛を受けていないと感じていました。美貌、才知と人の羨むものを持ちながら、最も欲しい「愛」を受けられないと感じているのです。
源氏の母は桐壷更衣といい、低い身分ながら帝の寵愛を受けて光源氏を産みました。他の女性からの嫉妬から来るいじめが元でなくなりますが、光源氏は物心がつくかつかない頃に母という最大の愛を失ったのです。そして、父からは阻害されていると感じます。そして、母に瓜二つだという藤壷に想いを寄せるのですが、彼女からは母を求める気持ちを恋愛と勘違いしていると拒絶されるのでした。
元服を機に、光源氏の身辺も変わります。元服前はそれなりに自由に振る舞えたのが「少しは自覚を持て」と言われるようになります。また藤壷に会えなくなり、平安貴族のしきたりや帝である父を憎んで歪んでいくのでした。その後の恋の遍歴を暴走と捉えたこの作品は極めて現代的であり、美しく、哀しいものとして進んでいきます。1000年も前の作品に少し手を加えただけで、同じ場面でも様子が違って見えるのがこの作品の最大の魅力です。