嵐が丘

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嵐が丘
9

画面から寒々しさが伝わってきます

E・ブロンテ原作「嵐が丘」をかなり忠実に映画化していて、原作の後半部分である子供たちの世代まで描き切っているので、満足度が高いです。英国ヨークシャーの丘に建つ「嵐が丘」に孤児の少年「ヒースクリフ」が連れてこられ、アーンショー一家の一員となりますが父親が亡くなってからは、息子のヒンドリーに虐げられて教育も何もなしに育つことを強いられます。けれども娘のキャシーだけは喧嘩をしても何をしてもいつも一緒でしたが、年頃の娘に成長した彼女は、裕福な名士であるリントン家に嫁ぎます。そのことを決めた時にキャシーが言った「私はヒースクリフなの」というセリフが、特殊なふたりの関係をあらわしています。彼女の結婚に傷ついたヒースクリフが出奔し戻ってきてからの、どれだけ傷つけあってもまるで魂の双子のように離れられない様子が、坂本龍一のドラマティックな曲とともにこちらに伝わってきます。裕福になって嵐が丘に戻ってきたヒースクリフは、酒に溺れていたヒンドリーから家を取り上げ、リントン家の娘を誘惑して駆け落ち結婚をしますが、キャシーは娘を出産後死んでしまいます。その時に、ガラス扉を破って血まみれの手で棺に眠る彼女を抱きしめる姿は鬼気迫るものがあり、あらためてふたりの異常ともいえる執着がみえます。そこにあるのは愛や憎しみやその他のあらゆる感情をぶつけ合う、荒野に吹きすさぶ強い風のように思えました。映画の後半は、キャシーの娘とヒンドリーの息子と共に嵐が丘で暮らしているヒースクリフが、不思議な感覚を覚えるようになるところが見どころです。まるで姿が見えないキャシーがかくれんぼをしてヒースクリフと遊んでいるような感じで、ついにヒースクリフが死んだ時も、彼が待ち合わせ場所に来るのが遅くなって、謝って仲直りをするような最後にみえました。特異なふたりの尋常じゃない二人だけの世界というのが、冷えびえした色調の画面や美しい音楽、ファインズとビノシュの演技からも伝わります。