夢と狂気の王国

夢と狂気の王国のレビュー・評価・感想

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夢と狂気の王国
9

夢は狂気をみる

この作品はスタジオジブリのドキュメンタリーである。

真っ白な建物に映る日差し、建物を覆う緑の木。ステンドグラに反射する光。水彩で描かれたいくつもの景色。カットをかえながら映像がゆっくり画面を流れた。私は、夢と言う言葉を聞くと、創造された美しい世界で人が生きるさまをイメージする。この映画はそんな夢の世界。アニメーションの一時代を築きあげてきた人たちが描かれている。

私はこの映画を見入ってしまっていた。なぜならば、制作現場は一緒に働く仲間でなければ見ることはできないからだ。どんな方々がどんな習慣で過し、どんな想いで映画を生み出しているのか気になった。

もちろん映画では完成するまでの全ての時間が映し出されたわけではなく、描かれているのは完成するまでの一部の時間。印象的だったのは、笑いながらではあるが、「もう作りたくない」と言う言葉が出てきたこと。大変でなければそうした言葉は出てこない。限られた時間内に物語を作り世へ送り出すことが容易ではないことが伝わってくる。

子どもの頃に見た、かっこよく美しいアニメーションの裏側は、美しいだけでなく、制作者の苦悩がつまっている。だからこそ一層美しく見えたのかもしれない。心の底から思っていることを出し合いながら懸命に映画を生み出す制作者の姿はかっこよく、この映画を見終えた時、私は言葉を発することができなかった。終盤では引退後もあと10年は映画をつくるといった飽くなき作り手の姿勢には息をのんだ。まさにスタジオジブリは、夢と狂気の王国なのだと思った。