かぐや姫の物語 / The Tale of the Princess Kaguya

かぐや姫の物語 / The Tale of the Princess Kaguya

『かぐや姫の物語』とは、日本最古の物語と言われている『竹取物語』を題材に、高畑勲が14年ぶりに監督を務めたスタジオジブリ制作のアニメーション映画。2013年11月公開。キャッチコピーは「姫の犯した罪と罰」。竹から出てきた娘・かぐや姫が美しく成長し、男性たちからの求婚をかわし、やがて月に帰って行くという『竹取物語』の筋書きはそのままに、何のために地球に来てなぜ月に帰ることになったのか、誰も知ることのなかったかぐや姫の「心」と、物語に隠された真実を描き出す。

かぐや姫の物語 / The Tale of the Princess Kaguyaのレビュー・評価・感想

かぐや姫の物語 / The Tale of the Princess Kaguya
10

いくらジブリ作品でもかぐや姫だから結局は昔話だと思うだろでも観てみたらつい語りたくなってしまう話

日本でおなじみの昔話『かぐや姫』が、故・高畑勲監督はじめスタジオジブリの手で、『かぐや姫の物語』として、映画化されています。見どころを3点ご紹介します。

第一に、美しい日本の風景やキャラクターを描く淡い色づかい、そして鉛筆画の輪郭線です。
アニメーターの原画の線を、目にしたことはありますか? 完成品では観客が見る事ができないその線には、いのちあるもののような魅力があります。
本作は、原画の鉛筆線の魅力を活かした映像づくりをするため、革新的な作画システムでの作業を経て、制作されました。近年のデジタルアニメーションに慣れた目には、一見、物足りなく見えるかもしれません。でも、昔話をおだやかに読み聞かせる声のように、本作の淡い絵はいろんなものを届けてくれます。
翁たちが里山にいる時の気温。季節感。翁が、小さい姫を呼ぶときの慈しみ。帝に近寄られた姫の恐怖、床板を蹴立て走る姫の怒り、さまざまな感情や肌触りが、絵から届くのです。

第二に、人間を描く点です。
平安時代=この物語の時代、結婚に際し、男性に選ばれることが一層の幸せとされ、そこにかぐや姫の意思は反映されません。一方、姫と結婚する男性は身分が高い方がいいと翁は考えています。それは、姫の幸せのためを考えつつも、自身のためでもある。
似たような価値観は、観客が生きる社会にも、いろんな形で残り続けています。ですので、昔話が昔話で終わらずに、観客に届く部分があるのではないでしょうか。性別を問わず、結婚に限らず、就職や入試など、選び選ばれることについて、幸せの基準について、観た人は何か考えるかもしれません。
故郷で幼馴染の青年と再会する場面では、かぐや姫の心は空へ舞い上がります。映画『おもいでぽろぽろ』で、男の子と話をしたタエ子が、天にのぼっていく描写がありました。あの映画は当時、等身大の女性=主人公タエ子の心の揺れを、リアルに感じさせるものでした。故・高畑監督のその手腕は、『かぐや姫の物語』でも発揮されています。本作でも、観ていて我が事のように感じる人は、いるのではないでしょうか。
当時の西村義明プロデューサーは、特に女性にはいろんな事を感じてもらえるのでは、と話していました。性別を問わず、未見の方はぜひどうぞ。

第三に、脇のキャラクターたちの、ユーモラスなデザインです。
ジブリのあの人似の翁、イケメンの帝に、『崖の上のポニョ』のポニョのような女官まで、個性的です。特に、最後に現れる月からの使者たちの姿は、必見です。悲しみや苦しみのなさが、見事に表されています。何かを口に入れて観ない事をオススメします。
他にも姫の声や姿の魅力など、注目点はあります。
紹介をこんなに長く書くほど、一人でも多くの観客に観てほしい作品です。

かぐや姫の物語 / The Tale of the Princess Kaguya
10

こんなに泣けた映画はありません。

高畑監督の遺作である「かぐや姫の物語」。この映画が発表された当時はそれ程興味を持ちませんでした。今頃手書きなんて…、少し時代遅れだな、と思っていました。
しかし、一旦見始めたらどんどん物語に引き込まれ、長編ではありますが一気に観ることが出来ました。観ている間、ほとんど泣いていました。何故こんなに涙が止まらないのだろう、と不思議に思う程、最初から最後までわんわん泣いてしまいました。
その理由は、この映画の中には、私の幼少期から独立までのすべての場面が詰まっていたからです。もうとうの昔に忘れていた幼少期の場面が、この映画を観る事によって一気に脳の記憶領域から再生され、それら過去の思い出と被り、あの時は幸せだったなー、と、どっぷり感傷に浸ってしまい涙が溢れ出てきました。
四季折々の風景が繊細な描写で描かれていますが、どの場面を見ても、「そうそう、自然ばかりだった昔はそんな感じだった。バッタが飛び跳ねるのは、カエルが飛び跳ねるのは、鳥が鳥かごの中でぴょんぴょん飛び跳ね囀るのは、草木が風に戦ぐ風景は、桜が満開の時の淡いピンクの色合いは、崖から転げ落ちる感じは、草や木しかない道端で近所の子たちと一緒につるんで遊びまわったのは、父母に育て上げられた時代の光景はこんな感じだったな。あの頃はとってもとっても楽しかった…。」沢山の貴重な過去の思い出が一気に溢れ出しましたが、今は全て存在しないものとなりました。
昔の良き時代の貴重な映画を高畑監督は労力と命をかけて残して下さったと思っております。他の誰にも真似出来ない力作です。この映画の中には人生全てが詰まっています。