いくらジブリ作品でもかぐや姫だから結局は昔話だと思うだろでも観てみたらつい語りたくなってしまう話
日本でおなじみの昔話『かぐや姫』が、故・高畑勲監督はじめスタジオジブリの手で、『かぐや姫の物語』として、映画化されています。見どころを3点ご紹介します。
第一に、美しい日本の風景やキャラクターを描く淡い色づかい、そして鉛筆画の輪郭線です。
アニメーターの原画の線を、目にしたことはありますか? 完成品では観客が見る事ができないその線には、いのちあるもののような魅力があります。
本作は、原画の鉛筆線の魅力を活かした映像づくりをするため、革新的な作画システムでの作業を経て、制作されました。近年のデジタルアニメーションに慣れた目には、一見、物足りなく見えるかもしれません。でも、昔話をおだやかに読み聞かせる声のように、本作の淡い絵はいろんなものを届けてくれます。
翁たちが里山にいる時の気温。季節感。翁が、小さい姫を呼ぶときの慈しみ。帝に近寄られた姫の恐怖、床板を蹴立て走る姫の怒り、さまざまな感情や肌触りが、絵から届くのです。
第二に、人間を描く点です。
平安時代=この物語の時代、結婚に際し、男性に選ばれることが一層の幸せとされ、そこにかぐや姫の意思は反映されません。一方、姫と結婚する男性は身分が高い方がいいと翁は考えています。それは、姫の幸せのためを考えつつも、自身のためでもある。
似たような価値観は、観客が生きる社会にも、いろんな形で残り続けています。ですので、昔話が昔話で終わらずに、観客に届く部分があるのではないでしょうか。性別を問わず、結婚に限らず、就職や入試など、選び選ばれることについて、幸せの基準について、観た人は何か考えるかもしれません。
故郷で幼馴染の青年と再会する場面では、かぐや姫の心は空へ舞い上がります。映画『おもいでぽろぽろ』で、男の子と話をしたタエ子が、天にのぼっていく描写がありました。あの映画は当時、等身大の女性=主人公タエ子の心の揺れを、リアルに感じさせるものでした。故・高畑監督のその手腕は、『かぐや姫の物語』でも発揮されています。本作でも、観ていて我が事のように感じる人は、いるのではないでしょうか。
当時の西村義明プロデューサーは、特に女性にはいろんな事を感じてもらえるのでは、と話していました。性別を問わず、未見の方はぜひどうぞ。
第三に、脇のキャラクターたちの、ユーモラスなデザインです。
ジブリのあの人似の翁、イケメンの帝に、『崖の上のポニョ』のポニョのような女官まで、個性的です。特に、最後に現れる月からの使者たちの姿は、必見です。悲しみや苦しみのなさが、見事に表されています。何かを口に入れて観ない事をオススメします。
他にも姫の声や姿の魅力など、注目点はあります。
紹介をこんなに長く書くほど、一人でも多くの観客に観てほしい作品です。