温かな光が包み込む小さくて切ない恋たちの物語
第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にて選出されたことで話題となった今作。
監督は「僕はイエス様が嫌い」にて、国内外の話題を呼んだ奥山大史監督。主演に越山敬達、中西希亜良、演技派俳優・池松壮亮。共演は若葉竜也など。
物語は雪が降り積もる田舎町。
ホッケーと喋ることが苦手な少年タクヤ(越山敬達)が、練習帰りに同じアイススケートで滑るさくら(中西希亜良)を見かける。あまりの美しさに見惚れてしまうタクヤだが、そこにさくらのコーチを務める荒川(池松壮亮)が現れて、3人の不思議な一冬の物語が始まる。
3人それぞれの立場からの恋心が描かれ、交差していく。今作で描かれているのは、「恋心とは何か」「お日さま」の意味とは。
「恋心」というものは付き合うことや結婚というものに結びつけることが多いだろう。
タクヤはさくらに憧れを抱き、さくらはコートである荒川に恋心を抱いている。荒川には愛するものがいるのだ。この3人は憧れや恋心を胸に抱きながら、生活していく姿が見られる。
しかし、今作では憧れや恋は必ずしも形で表せるものではないと教えてくれる。
恋や憧れは形にならずとも、「お日さま」の光のように人の心を包み込むものであることを丁寧に描いている。人を突き動かす原動力となり、生きる希望であることを物語として語っているのだ。
また、障害や性的マイノリティーなど様々な困難を抱えたものたちが登場する。
タクヤは会話をする際に吃りがある吃音症の少年。
荒川はコーチをしながらガソリンスタンドの店長と同棲する同性愛者である。荒川が同性愛者であることを知ったさくらは拒絶してしまう。
しかし、作品内では困難を抱えた者にも困難を拒絶してしまう者にも私たちと同じように太陽の光が照らされる。
本来、太陽の光を目にすることができるように誰もが平等であることを教えてくれる。
今作はセリフの少なさもあり、難解だと感じる方もいるだろう。
しかし、主題歌でもあるハンバート・ハンバートの「ぼくのお日さま」という楽曲から着想を得ているため、ぜひ楽曲を聴いた上で観ていただきたい。
きっとあなたの心にも温かな陽の光が照らすはずだ。