真摯な言葉が心を打つ「新入社員」
今回はモスカレート先生の代表作、韓国BL「新入社員」を今回はご紹介したいと思います。
「新入社員」は韓国BL初心者向けの作品と言われており、ストーリーと萌えシーンの割合も良い作品です。鬼上司とわんこ系インターンの心の触れ合いを重視しつつ、過去の恋や恋愛観、権力争いなどの読み応え満点の作品。今回はストーリーを紹介しながら、ふたりの恋の行方を見ていきましょう。
「厳しい上司×インターン」
名門S大学の大学院を卒業したウ・スンヒョン。就活に失敗したスンヒョンはインターンとして大手広告会社AR企画に採用されます。
ですが初出勤の日、社員証を持たないスンヒョンは中に入れず、そこに通りがかったキム・ジョンチャンのおかげで入ることができましたが、戦力にならないインターンの存在を良く思っていない様子です。
実はジョンチャンは業界一の才能の持ち主で、広告業界にジョンチャンありと呼ばれる人でした。そんな人ですから、即戦力にならないインターンを宛がわれ、不快に思わないわけにはいかないのです。
スンヒョンはと言うと、最初は厳しいジョンチャンにビクビクとしていましたが、タスク処理がうまく、マーケティングに対する考え方をもっていました。そのことに気が付いたジョンチャンは大手カード会社の広告の仕事をスンヒョンに任せることにします。熱く仕事のことを語るジョンチャンに惹かれはじめていくスンヒョンはチーム内の飲み会の後、酔った同僚を一緒に送った後、アクシデントでキスをしてしまいます。
このキスシーン、スンヒョンの独白と共に表現されます。触れるまつ毛の柔らかさや触れる息遣い。読むだけでドキドキしてしまうような、そんな表現なのは、スンヒョンのファーストキスだからです。
そのシーンだけ音が止まったような。時さえも止まるような、そのコマの表現は読むだけでときめきます。このキスがきっかけで、ジョンチャンとスンヒョンは互いを意識しはじめるのです。
そしてこの頃、スンヒョンの実力を理解しないチーム長配下の社員から、S大学の学閥でひいきされているのではと思われ、スンヒョンは嫌がらせを受けてしまいます。
駆け付けたジョンチャンに助けられ、慰めるためジョンチャンはスンヒョンにキスをしたことで、ふたりは特にお互いの気持ちを告げることなく付き合う流れになったのです。
「恋愛不器用なふたり」
流れで付き合うことになったふたりでしたが、はじめての夜をジョンチャンの部屋で過ごしたスンヒョンはそこで思わぬものを見付けます。それは大学時代片思いをしていた相手、ナ・ユソンが恋人のためにプレゼントを選びたいとスンヒョンに選ばせたもので、スンヒョンがユソンに対し自分の失恋を悟った苦い思い出の品物だったのです。
ユソンの恋人がジョンチャンだったことを知り逃げだしたスンヒョンはジョンチャンを避け続けます。気まずい気持ちは仕事のミスに繋がり、ジョンチャンをいら立たせていきます。ユソンが理由であることを知ったジョンチャンは変えられない過去のせいで苦しむならと別れを決意するのですが、チームで別荘に宿泊した際、他の社員の言葉に、三35歳の自分が今ときめく相手に出会ったのは運命なのではないかと思いスンヒョンを追いかけます。
買出しに出かけたスンヒョンに追いついたジョンチャンは熱い思いのまま語ります。「ユソンのことで苦しむスンヒョンの気持ちが分かると言えればいい。でも自分にはそんな言葉は言えない。だけどスンヒョンの気持ちを理解していきたい。傷ついたスンヒョンの気持ちは自分に出会うためにあったと思えるように努力するからだから、もう1度仲を深めるチャンスをください」と。
好きとは告げず、これほどまで心が揺さぶられる言葉を紡ぐことが出来るなんて。そう、これが「新入社員」の良いところなのです。
いつも受け身の恋愛をしていたジョンチャンと恋愛経験のない奥手のスンヒョン。そんなスンヒョンだからこそ、好きなどと言う単純な言葉ではなく、心からの言葉をジョンチャンは贈ります。
1度目の交際の始まりはキスからでしたが、今度は言葉と誠意を尽くします。不器用だからこそ、嘘偽りない言葉を紡ぐジョンチャンにスンヒョンも素直に心の内を吐露します。
好きだとか指輪を出すだとかそう言うものではなく、心を尽くす。この漫画が心温まるのはこういったシーンの積み重ねで恋が出来上がっていくからかもしれません。
こうして、ふたりは誰にも知られず交際をスタートさせます。同時に広告業界の楽しさを知ったスンヒョンは試験を受ける決心をするのでした。
「派閥争いと男のプライド」
ジョンチャンに試験のための勉強を見てもらいながら順調に試験を終えたスンヒョンでしたが、結果は不採だったのです。実はジョンチャンを持ち上げるS大学の学閥が広がることを嫌がったチーム長がスンヒョンの点数を故意に落としたことが原因でした。
自分のせいでスンヒョンの未来をつぶしたと気づいたジョンチャンは現場主義で昇進を拒んできたせいで肝心な時に大事な人を守れないのだと打ちのめされます。しかし、スンヒョンを救いたいジョンチャンは自ら社長の元へ赴き、自分を評価しているなら自分にふさわしい権力のあるポストが欲しいと願い出ます。
自分の価値を売りに出す。日本の企業では考えらえないものですが、韓国BLではこういった実力主義のような表現はよくあり、勝負に出る感じを大きくさせます。
企画畑にいられなくなるかもしれないと脅されても、自分に採用の権限が得られるならと食い下がります。そんなジョンチャンに社長は条件を出すのです。
その頃ジョンチャンのいる企画部ではジョンチャンが営業に移動させられると言う噂が飛び交いはじめます。
ジョンチャンが自分のために望まぬことをするのでは、そう心配するスンヒョンの前に疲れきったジョンチャンが現れたのです。
「はじめての告白」
疲れきった顔でスンヒョンの前に現れたジョンチャンは、スンヒョンをドライブに誘います。そして高級ホテルに到着すると、少しだけ寝かせて欲しい、そう言ってジョンチャンは眠りについてしまいます。
自分のために疲れきっているジョンチャンにスンヒョンは心を痛めます。そして一緒に眠りについたスンヒョンは翌日の朝、ジョンチャンから契約書を手渡されます。そこには新しく出来た企画4チーム、その契約社員としてスンヒョンを採用するというものでした。
ジョンチャンの力を手放したくない社長はジョンチャンを新しいチームのチーム長として権限を与えるが、スンヒョンの採用は次年度に自分の手でしろと言う案を示したのです。
ジョンチャンは「スンヒョンに出会えたことで身の丈にあった地位を欲する気持ちが出来た。ドラマのように自分が財閥の息子なら覆せることが出来たかもしれない。でも、今の自分にはこれぐらいしか出来ないけど、そばにいてもっといい男になれるようにしてくれますか?」と、気持ちを語ります。
ここでもジョンチャンは言葉を尽くします。そして目の前に立ちはだかる壁をスンヒョンと手を取り壊したいと願うジョンチャンからはじめての告白が零れるのです。「愛しています」
好きではなく、愛してる。プライドをかけた戦いを終えたジョンチャンから紡がれるこの響きは、重く、そして深く読み手の心に響くのです。
「そして伝説へ」
こうして新たに契約をしたスンヒョンは契約社員としてはじめて企画4チームに出勤します。
「新入社員、ウ・スンヒョンです」そう挨拶するスンヒョンの言葉がタイトルの新入社員の意味だと気づくのです。
この後、原作である小説版では、スンヒョンを落としたメンバーたちが退職に追い込まれていき、ジョンチャンは専務に、スンヒョンはパート長に昇進していくまでが描かれています。
漫画を読んで続きが気になった方は韓国語版ですが電子と書籍で小説本が出ていますので、ぜひ読んでみてください。
さて、台湾で出版されている3巻のパッケージには「電話Play来襲〜?準備好了??」(電話プレイが来ます、準備はいいですか?)なんて見出しが書かれています
実は新入社員で最も有名なシーンは外伝の電話プレイなんです。
心を尽くし、言葉を尽くして語られるこの話ですが、やはり腐女子にとって大切なのは、どんなラブラブシーンがあるかです。
日本語版はピッコマで配信していますので、ぜひ伝説の電話プレイまでじっくりふたりの恋の行方を楽しんでください。