空想の世界だからこその表現
精神世界の中という舞台においては、現実離れした表現が可能であって、そういった利点を不気味さや神々しさを演出することにうまく使えている。『The Cell』はそんな映画だと思う。
心理学者の主人公が凶悪犯罪者の精神世界に入り込み、現実世界で起きている事件を解決するための手がかりを探す、というのがメインのストーリーである。その精神世界の中での主人公や登場人物の衣装、そして取り囲む空間が、トレーディングカードゲームのマジックザギャザリングの絵にいかにも出てきそうであり、10代の頃、初めてこの映画を観た時に衝撃を受けた。サスペンス好きだけではなく、魔術的な世界観が好きな人にもこの作品を是非おすすめしたい。
主人公はとても純粋な女性なのだが、犯人の精神世界の中にいる無垢な少年と向き合っていき、犯罪者となった大人の姿の犯人の術中にはまっていく流れがとてもスリリングである。現実世界と精神世界を混同して自分を見失いかける主人公に、つい感情移入してしまう。
また、犯人は幼少期に溺れかけたトラウマがあり、現実世界で女性達を誘拐し、まず溺れさせるという手口で反抗に及ぶ。そのように作品を通して水が1つのテーマとなっているところが、作品の神秘的な世界観をサポートしていると思う。
この作品は日本のホラーとはまた違うゾッとする不気味さがある。天井から透明の板が複数枚降り注ぎ、馬に刺さり前から後ろまで輪切りになったり、田畑に同じ女性が3人並んで座って夜空を口を開けて眺めており、話しかけると1人づつ返答し、また夜空を見上げたりと、空想でしか作れない恐怖をうまく演出している。日本のホラーは飽きたし、西洋のホラーはグロさに頼り過ぎて嫌、という人も新鮮に楽しめるかもしれない。
何よりも、事件解決の手掛かりを精神世界で探すというテーマが、SFとサスペンスをとてもうまく繋いでいると思う。