つくられたサイコパスの心の揺らぎ
絵本『怪物の木こり』は、人を喰らう怪物が木こりに成りすまして村人を襲うお話です。その怪物の木こりに扮した連続殺人鬼は、人の頭蓋骨をたたき割り、脳を奪う脳泥棒として警察に追われていました。この木こりに命を狙われたのは、弁護士の二宮。斧で襲われ頭に傷を負いながらも、なんとか生き延びます。ところが、この弁護士はとんでもないサイコパスで、自身も人を殺してきたのですから驚きです。しかも、サイコパスで医師の友人までいるのですから、2度びっくりです。
二宮は木こりに襲われた治療の過程で、自身の脳内にチップが埋め込まれていることを知ります。いつ、誰が、何のために埋めたのか、全く思い当たる節のない二宮。警察の調べでは、木こりに殺された人たちはみんな周囲から疎まれるサイコパス気質で、脳内にチップを埋め込まれ、養護施設出身者だということが判明します。木こりはサイコパスを怪物狩りと称して殺して回っていたのです。脳チップは、サイコパス気質を治療する目的だったと推察する二宮。自身も子どもの頃に治療のため、チップを埋められたが失敗だったとして捨てられたのではないかと考えます。しかし、木こりに襲われて以降の行動を振り返り考え直します。二宮は脳チップの破損により、人殺しをためらうようになっていたのです。
脳チップが埋められたのには、子どものサイコパス気質を治療したい夫婦が大きく関わっていました。実験をしたいがサイコパスの子どもなど、なかなか見つけられません。ならばサイコパスを造ってしまえばいいというとんでもない発想から、子どもたちを誘拐し手術していたのです。その生き残りが二宮と怪物の木こりでした。なかなかシュールな展開ですが、脳チップの破損により、二宮の行動や考え方が少しずつ変わってゆき、殺すことをためらったり、戸惑ったり、涙を流すようになります。木こりに拐われた婚約者を助けるために危険を犯して乗り込む姿は、このままハッピーエンドで納まるのではないかと思わせられました。以前のサイコパス状態の彼なら、絶対に助けに行かなかったでしょう。だが、助けに行ったために、たくさんの人を殺してきた殺人鬼で、婚約者の父も手にかけていたことがバレてしまいます。最後は婚約者に刺されてしまいますが、婚約者を殺人者にしないため、正当防衛の証拠を作り息絶えるのでした。冷酷無比なサイコパスが感情を取り戻し揺れる気持ちを描く、ちょっと変わり種のサイコパス映画でした。