キリエのうた

キリエのうたのレビュー・評価・感想

キリエのうた
9

4人の13年間を目の当たりにすることになる映画

2023年10月13日に公開された映画『キリエのうた』。良い意味で、公開直後に1人で観に行ったのが間違いでした。

家のない無名ミュージシャン・キリエと、彼女と関わりの深い3名の13年間を描いた作品。
上映時間が3時間近くあるという事前情報にビビりながら映画館へ足を運んだのですが、鑑賞後最初の感想は「時間が足りない」でした。

第一、13年間を3時間にするというだけでもだいぶ挑戦的な構成であるし、その3時間も最初から最後まで濃密な人間模様や社会を描かれているのであっという間に時間が過ぎていきます。

もし自分がキリエの立場だったら、もし夏彦、イッコ、フミだったとしたら。
どの視点に立って鑑賞するかによって、その後の感想が大きく枝分かれするほど、一人ひとりを丁寧に描いているので、なるべく複数人で観ることをオススメします。

私は2回映画館で観に行き、2回目は友人たちと足を運んだのですが、年齢、出身、性別など、個々人の個性によってこの映画に対して抱く感想が異なっており、それを夜更けまで話し合うのが最高の時間となりました。

また、この映画の特徴として、2011年の東日本大震災時に石巻がどのような揺れであったか、その後の街の人々の混乱などが詳細に描かれていたため、当時関東にいて被害があまりなかった私にとって、その揺れが衝撃的でした。

1本の映画で多くの人生を覗き見ることができ、「自分として生きること」を今一度考えさせられる作品です。

キリエのうた
10

3時間が短く感じられる映画

2時間58分。これは岩井俊二監督の『キリエのうた』という音楽映画の上映時間だ。約3時間というこの上映時間を知って、観に行くか迷う人もいるかもしれない。でも、素敵な音楽と物語に包まれた非常に心地良い3時間は、寧ろ短く感じられる。

『キリエのうた』は、元「BiSH」のアイナ・ジ・エンドが主演を務め、主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」を歌唱、その他6つの劇中曲を制作した。どの曲もとても素敵で、劇中の映像と相まってさらに儚く、綺麗に聞こえる。メインキャストは「SixTONES」の松村北斗、黒木華、広瀬すずととても豪華で、役柄の魅力がより一層引き立てられて見えた。

この監督の映画は独特な世界観や音楽性で人気で、この作品に関してもファンからの期待の声が多かった。実際、ありがちな言葉で綴りたくない雰囲気と中毒性を含んでおり、その独特な世界観に、映画館という空間がじわじわと染められていく感覚があった。
考えさせられるという意味では凄く引きずる作品にも関わらず、何故か心の蟠りを解いてくれるような心地よさもあり、不思議な魅力を感じた。
1度見るだけでは満足できない感覚が本当に堪らない。この作品を機に岩井俊二監督の作品に興味を持つ方も多いのではないだろうか。