兄だったモノ

兄だったモノのレビュー・評価・感想

兄だったモノ
8

先の見えないホラーミステリー

兄の墓参りに訪れた主人公と、兄の恋人だった男性。そして主人公の目に映る、兄であったなにか。
死を境にしてもつれ合う愛憎が描かれる、ホラー漫画です。
独特の絵柄は癖があるので、好みが分かれるトコロもあるかと思いますが、ホラーとしては迫力があり魅力的です。
バケモノの登場するシーンの禍々しさには、毎回ぞっとさせられます。
明るい夏の日差しから不意に暗く差し込んでくる化物の影、恋する乙女のような表情から明らかに常軌を逸した目に変わる主人公と、見せ方も効果的です。
またストーリーも、次々と不穏な展開を見せスピーディー。サスペンスとしても秀逸です。
冒頭に「緑の目をした怪物」「デズデモーナ」といった単語があることから、シェイクスピアのオセロがモチーフになっていると思われるのですが、どのような結末になるのかはまったく想像がつきません。
恋をした主人公の狂気、優しかった兄が家族に見せなかった一面、そして名前の通り聖なる純真さを見せていた恋人の意外な過去…と、何かが明らかになる度により深く墜ちていくような、底の見えない恐ろしさがあります。
事実が明らかになる度に、そう言えばあの描写は…と読み返したくなる伏線が仕込まれているのも絶妙です。