稲葉曇

稲葉曇のレビュー・評価・感想

New Review
稲葉曇
9

「稲葉曇」を知れば灰色も曇りもきっと好きになる

稲葉曇は2016年から活動を始めたボカロPで、ボカロ楽曲らしくないアンニュイなサウンドを作っている。ボカロファンの間では既に大きな存在で、「ラグトレイン」や「ロストアンブレラ」といった彼の曲は海外を含め多くのファンを獲得している。

最初に注目したいのは歌詞だ。日常生活を歌っていても、それを膨らませて小説を読んでいるかのような歌詞を書けるのは評価すべき点である。
それを歌うのは歌愛ユキだ。稲葉曇の曲と言えば歌愛ユキ、歌愛ユキといえば稲葉曇と感じる人も少なくない。歌愛ユキのあどけないのにハスキーな声は、稲葉曇の歌詞を増幅させる。
ちなみに歌愛ユキの他の代表曲として、ボカロPのYukopiによる「強風オールバック」と「寝起きヤシの木」がある。この稲葉曇楽曲とYukopi楽曲の歌愛ユキのテンション差を感じてみてほしい。なかなか面白いものである。

そして、稲葉曇について書くなら、MVやジャケットの絵にも触れる必要がある。背景は灰色に統一されており、8曲目以降のイラスト及びアニメは全てイラストレーターのぬくぬくにぎりめしが担当している。いつも描かれるのは黒髪で2つ結び、ぱっつん前髪のジト目の女の子。作曲者とイラストレーターが別の人だとは思えないほど、曲と絵がマッチしすぎている。アンニュイなサウンドに無彩色が合っている。歌愛ユキの歌声も、ぬくぬくにぎりめしの描くジト目の女の子の歌声のように思ってしまう。
かなり丁寧に磨かれている稲葉曇の作品を、ぜひ堪能して欲しい。