[みつばちハッチ勇気のメロディ] 『ハッチ』のスズメバチの描かれ方に見る時代の変遷
『みつばちハッチ勇気のメロディ』(以下映画版)は、2010年に公開されたアニメ映画です。1970年『みなしごハッチ』のタイトルで放送されていたアニメのリメイクで、色々と時代を反映させる作りとなっていました。
スズメバチの襲撃で母と生き別れになったミツバチのハッチが、母を探し旅をするというのが大筋となります。昭和の『ハッチ』(以下昭和版)は、今と比べて規制が緩く、容赦のない展開も多くありました。映画のハッチでもスズメバチによる襲撃の場面はありますが、ミツバチが殺される描写はありませんでした。
昭和版、映画版共に、スズメバチは悪役であり、狩りにしても、他の虫をいたぶることを楽しんでいるような描写がされています。昭和版でも、ハッチと心を通わせる個体こそいても、基本的には「倒すべき敵」との描かれ方で、最後は全滅します。
映画版では、少しだけ描写が違っていました。それは、被害者としての側面です。昭和版でも、人間が自然を汚し、破壊する存在として登場していますが、スズメバチが直接害を被ったと思しき描写は皆無でした。映画版では、ハッチの国を襲ったスズメバチたちは川の中のゴミ溜めに巣を作っていました。「ずっと前に、大きなスズメバチの群れが飛んで行った」という虫の証言もあり、人間に住処を奪われたことが示唆されています。
スズメバチのみならず、ミツバチもまた「すっかり見なくなった」「珍しい」と言われており、昭和版の放送時期よりも深刻な自然破壊のメッセージが発せられていました。利害が一致すれば協力もしてくれるスズメバチは単なる悪役ではなく、守るべき女王も幼子もいる、一つの命だと教えてくれる作品となっています。