アリスとテレスのまぼろし工場

アリスとテレスのまぼろし工場のレビュー・評価・感想

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アリスとテレスのまぼろし工場
8

恋する衝動と、生々しい人間のうつくしさ

岡田麿里監督作品の『アリスとテレスのまぼろし工場』。
このかわいらしいタイトルとは裏腹に、作中においては人間の生々しさや繊細でリアルな内面が描かれています。
「恋する衝動が世界を壊す」というキャッチコピーにもあるように、この物語を動かすキーは、さまざまなキャラクターたちの純粋な“恋する衝動”です。作品には、お互いの関係を発展させられないもどかしさや、報われない恋をしたときの苦しい気持ちが凝縮されていて、共感できるシーンやセリフがいくつも散りばめられています。
ただ、哲学用語が出てきたり、独特な世界観の表現があったりするので、人によっては観ながら「今のはどういうことだろう?」とやや混乱してしまうかもしれません。並行世界ものや、考察するタイプの映画が好きだという方であれば、そのような引っかかりもなく存分に楽しめる内容だと思います。
そんな『アリスとテレスのまぼろし工場』のいちばんの注目ポイントは、主人公の菊入正宗と佐上睦実、そして製鉄所に閉じ込められている少女・五実の関係性です。この三人にどんな繋がりがあるのかを知る前と知った後とでは、作品に対するイメージががらりと変わります。中島みゆきによる主題歌「心音」の歌詞の解釈もひときわ違うものとなるでしょう。
「恋って何だっけ?」「人を好きになるってどういうことだっけ?」と忘れがちな大人にぜひオススメしたい作品です。

アリスとテレスのまぼろし工場
6

独特の世界観が持ち味

少年少女たちが世界の謎に迫る姿が独特の世界観で描かれている作品でした。
監督の今までの作品のような、どうしようもなく心を動かされざるを得ないシーンは個人的にはなかったですが、興味深い作品だったと思います。
人間は変化する生き物で、変わらないと生きていけないということがメッセージとして含まれる内容だったと感じました。
変化が禁じられた日常を生きる中で、痛みや危険と隣り合わせの遊びをしたりいじめのようなことをしたりという描写がありましたが、そんな環境で生きていると自然とそうなってしまうものなんだろうなと考えながら見ていました。
最終的に主人公を含め恋に気づいた登場人物たちがいたり、自分たちがどう考えて生きるのかは自分で選べるといった内容が描かれていたのですが、変化すると消されてしまうという世界観の中で彼らが消えてしまうことにはならないのかなという疑問は残りました。
多少消化不良気味なところはありましたが劇場で見れて良かったと思います。人が消えてしまうシーンや終盤の花火など映像も綺麗でした。タイトル回収にも納得です。
私は陰鬱な世界観は好きですが、最終的には前向きな終わり方なので癖が強い作品が苦手と思っている方でも楽しめると思います。