クジラの島の少女 / Whale Rider

クジラの島の少女 / Whale Riderのレビュー・評価・感想

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クジラの島の少女 / Whale Rider
5

「伝統」と「革新」の共生を描く。ニュージーランドの先住民族「マオリ族」の村を変える「少女パイケア」の物語。

この映画をオススメできる人
・短時間であっさりとした映画が見たい人
・異国の文化が好きな人
・「伝統」と「革新」の共生に興味がある人

この映画をオススメできない人
・ファンタジー映画が見たい人
・社会派映画が見たい人
・登場人物の背景を考えるのが苦手な人

「作品概要」

映画「クジラの島の少女(Whale Rider)」は、2002年に公開されたニュージーランドの映画である。

舞台はニュージーランドの海辺にあるマオリ族たちの村ファンガラ。ここには「クジラにまたがり人々を導いた勇者パイケア」の伝説が残っている。ファンガラではマオリ族はパイケアの子孫と信じられ、族長は家系の長男の中から選ばれて代々その系譜を継いできた。
しかし現代に至り、その継承に「大きな問題」が発生する。
現族長コロの長男ポロランギは族長の役割を受け継ぐことを拒否し続けていた。そのポロランギと妻の間には男女の双子が生まれるが、難産の末、妻と男の子の方が命を落としてしまう。頑なに伝統を守り続けたいコロはポロランギに再婚と男の子を生むことを迫るが、ポロランギは反発し村を出ていってしまった。
皮肉なことに、残された女の子は勇者と同じ「パイケア」の名前を与えられ、ファンガラの村で成長していく。
そして、彼女が12歳になった時、小さな村は大きな変化に巻き込まれることになる。

この映画の監督は舞台となるニュージーランド出身のニキ・カーロ氏で、この作品では「サンダンス映画祭」にて観客賞を受賞した。同氏は2005年には世界初のセクシャルハラスメント訴訟を題材にした「スタンドアップ(North Country)」でハリウッドデビューを果たし、2020年にはディスニー長編アニメーション映画「ムーラン」の実写リメイク作品の監督を務めている。
「クジラの島の少女」ではカーロ氏が監督と共に脚本も務めている。この映画はマオリ族の作家ウィティ・イヒマエラ氏の同名小説を原作とし、映画の中でもマオリ人の風習や言葉が要所にちりばめられている。カーロ氏もまたニュージーランド出身であるからこそ、マオリ族の文化によりリアリティを持たせられているのだろう。
主人公の少女パイケアを演じる女優はケイシャ・キャッスル=ヒューズで、彼女はデビュー作となるこの映画で当時の「アカデミー主演女優賞」に史上最年少でノミネートされた。

作品は102分と短く、シナリオもわかりやすいものであるため、とてもあっさりと観ることができる。結末もハッピーエンドかバッドエンドかはっきりしているため、鑑賞後もすっきりとした気持ちでいられるだろう。
一方、上映時間の短さに反比例してマオリ族の文化や伝統が多くちりばめられているため、短時間で異国情緒をふんだんに感じ取ることができる。
挨拶の仕草として有名なのは欧州でのハグや頬を合わせるチークキスであるが、マオリ族は互いの鼻と鼻を合わせて挨拶をする。映画の中でもコロとポロランギが再会したときや、パイケアがクジラに挨拶をするときにその仕草を見せるシーンがある。また、セリフには基本的に英語が用いられているが、パイケアの伝説を語るうたやお悔やみの祈りなどを捧げるときはマオリ語が使用されている。
日本の真南に位置する国の文化に触れる入り口としては十分だ。

しかし、先述したあらすじの通り、狭く刺激の少ない村での息苦しい生活や、「伝統」と称した男尊女卑や立場による扱いの格差が描かれるなど、社会派映画の側面も強い。
作中では、族長を継ぐ者は「長男」か「男」でなければならない、とされている。力や知恵などの才能や資格があるだけではだめなのだ。
主人公が少女であることもあって「女だから」という側面が大きく取り上げられているが、「長男だから族長にならなければならない、自分の愛する人を自由に愛せない、自分がやりたいことを自由にやることができない」「次男だから族長に必要な力を示す武術タイアハに優れていても族長にはなれない」などという点も、少女パイケアの父ポロランギや、叔父ラウィリから感じ取ることができる。パイケアを始めとした族長一家は皆それぞれに「伝統」という檻の中でもがきながら生きてきたのだ。
伝統の檻から脱したいからこそ、祖母や叔父といった族長一家が、伝統に縛られ続ける祖父コロの目を盗んでパイケアの成長を手助けするのではないか。そうした各々の背景が「頑なな伝統」へ「柔軟な革新」の風を吹かせ、共生させることを推進させるのではないか、と考えさせられる。
パイケアを取り巻く男尊女卑だけでなく、僅かではあるが男性であるがゆえの立場の苦悩も取り上げられており、好感が持てる脚本となっている。

とはいえ、取り上げている内容に不釣り合いなほど、あっさりしすぎている感覚も否めない。
単調でストーリーが分かりやすく鑑賞しやすいことには違いがないのだが、社会派映画として見るには重厚感や現実味が不足しているように感じる。主人公パイケアと祖父コロ以外の登場人物の掘り下げが浅く、それぞれの心情や背景を鑑賞者が想像しながら見る必要がある。
また、村に纏わる伝説を軸に物語が進んでいくため、ファンタジー映画として見ることも可能ではあるが、そう分類するにはいささか現実味が強い。
ジャンルとしては「ファミリー映画」となっているが、子どもの喫煙シーンや違法薬物を扱っていると思しきシーンがあり、レイティングもPG12であるため、安心して家族で観れる映画とは言い難い。
映画をカテゴライズするにはいささか中途半端と言わざるを得ない。

尤も、総合的にはサンダンス映画賞の受賞作品であるし、主演女優ケイシャ・キャッスル=ヒューズが史上最年少でアカデミー主演女優賞にノミネートされたということもあり、世間的な評価は高いことは証明されている。
映画.com、Filmarks、Amazon.co.jpによるレビューの平均も5段階評価中3.6と一般的な評価は高めとなっているため、見ごたえのある作品であることに違いはない。
是非、マオリ族の文化に触れつつ、運命に翻弄される少女パイケアの成長と共に「伝統」と「革新」の共生についてゆったりと考えてみてほしい。