兎の眼

兎の眼のレビュー・評価・感想

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兎の眼
10

全ての教育者に読んで欲しい

大学を出たばかりで新婚の新任教師、小谷先生の奮闘を描いた作品。
全ての登場人物の心情が痛いほどよくわかる。ハエを集める鉄三と、そのおじいちゃん。
ハエは汚いから、そんなもの集めてないで捨てちゃいなさいよ。誰もがそう思う。そんなハエが宝物の鉄三ちゃん。
おじいちゃんの朝鮮の話は惨たらしいが、そういう現実があったということは知っておくべきことだと思う。
小谷先生の高校時代の恩師の話は、私もドキッとさせられた。
「人間が美しくあるために抵抗の精神をわすれてはなりません」
抵抗すると生き辛いからと、言われた通りに生きる毎日になんの意味があるだろうか、そんな風に私は感じ取った。
風変わりな足立先生。足立先生はしっかりと抵抗できる先生。みんなに一目置かれている。
足立先生の授業の面白さに、他の先生は「真似させてください」というが、小谷先生は「とても勉強になりましたが真似はしません。苦しんで自分で考えて、自分で作り出すようにします」というのだ。
自分だったら、「その他の先生のように真似させてください」といってしまうだろうな。
小谷先生の夫は、小谷先生の父親がお医者さんだから、土地など分けてもらえるだろうと甘い考えを隠せずにいるところが正直だ。
足立先生は、お兄ちゃんが自分たちに物を食べさせるために盗みをして亡くなったことを悔いている。人の命を食べているという言葉が重く響く。
全ての教育者に、この本を読んでもらいたい。