グヤバノ・ホリデー

グヤバノ・ホリデーのレビュー・評価・感想

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グヤバノ・ホリデー
9

「あるはず」を求めた、夢日記のような短編集

「グヤバノ・ホリデー」は、21篇からなる短編集だ。その中から表題作である「グヤバノ・ホリデー」にフォーカスしてレビューしよう。
まず、グヤバノをご存知だろうか。グヤバノとは、南北アメリカ原産の果物のことで、日本ではほとんど出回っていないらしい。
これは、主人公が昔上野のアメ横の店で買ったグヤバノジュースを求め、原産地であるフィリピンに友人と探しに行くという小さな冒険の物語である。
2人はグヤバノを求め、現地の住人に聞き込みをしながらコンビニに寄ったり、ローカルなスーパーへ行ったりして、異国の情緒を感じながら旅を進めていく。
内容は、簡単に言うと作者本人の旅行記なのだが、その描き方が独特で面白い。
背景は、黒ペンで細かく描写する細密画のような見た目をしながら、フリーハンド特有の緩やかな曲線で描くため、幻想的な世界が広がる。「グヤバノ・ホリデー」では、作者が現地で撮影したであろう店や看板の写真を、そのまま背景として取り入れているコマもある。
その背景の上を、筆のような掠れた抑揚のある線でキャラクターたちが動く。人間の形をしているのは、主人公と友人くらいで、他は、身体は人間だが、タコのような構造物の頭をしたキャラクターや、「レオナルド」と呼ばれるデフォルメ化したイルカのようなキャラクター(主人公曰く犬らしい)など、他では見たことのないキャラクターが登場するのだ。
またpanpanyaの漫画は、基本短編の1話完結型で、その話ごとにこのキャラクターたちが違う設定を担って登場することが多々ある。例えば、レオナルドは「グヤバノ・ホリデー」内では、タクシー運転手だったり、現地のガイドだったり、その他大勢のモブであったりした。
なんの変哲もない日常に、少しの想像を絡ませ、SFと現実を曖昧に描いた短編集「グヤバノ・ホリデー」は、夢日記を彷彿とさせる不思議な漫画だ。