勇気あるものより散れ

勇気あるものより散れのレビュー・評価・感想

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勇気あるものより散れ
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「戦う少女」の魅力がつまったマンガ!「勇気あるものより散れ」

マンガ家の相田裕先生といえば、「GUNSLINGER GIRL(ガンスリンガーガール)の人」として有名ですが、2021年2月から連載を開始した「勇気あるものより散れ」もおススメしたいマンガです。
相田裕先生は「1518!」という青春マンガも描いていらっしゃいます。失礼かもしれませんが、私にとってはそちらはちょっとイマイチ、という印象でした。
その次作として連載を開始したのが、「勇気あるものより散れ」です。

明治7年の東京、幕末の武士として生き残った春安。「死に損ねた」という春安は死に場所を求め、内務卿・大久保利通の暗殺に加担します。
そこで内務卿を守るため出会ったのが、不死の少女・シノ。
シノの母親・三千歳(みちとせ)は、暮らしている村で数百年前に飢えに苦しみ、神々が住むと言われる化野(あだしの)へ辿り着き、そこで不死の身体となりました。シノは化野の母と人間の間に産まれた子で、「半隠(はたかく)るる化野民(あだしののたみ)」です。
三千歳は15歳で化野の民となったことで、何百人もの男と交わり、子を産まされ続けました。その苦痛によりとうとう気がふれ、自分の子のことも何も分からぬようになってしまいました。
シノの目的は、母を殺して自分も死ぬこと。そこでシノは瀕死の春安に自らの血を分け与え、「眷属」にします。
眷属になった春安はシノの血を定期的にもらい受け、不死の身体を得ることとなります。「人間としての生を奪ってしまって、ごめんなさい」と謝るシノに、春安は「奪われたのではない、与えられたのだ」と歓喜しました。「命を捨てるものとばかり考えていたが、使うものだということを思いだした」と言った春安は、シノと共闘することを誓います。

相場先生が描く作品の凄いところは、知識量の深さ。「GUNSLINGER GIR」でも思っていたのですが、銃の描き方、使い方など、どこでその知識を得ることができたのか、不思議でなりません。
この作品も、刀の使い方や戦い方、シノの袴の着付けまで「適当」がないのです。そして、「戦う女の子」という「GUNSLINGER GIR」から受け継がれてきた「儚さ、美しさ、無慈悲さ」をこれでもかと描きます。
戦いの多いマンガですが、心理描写も丁寧に描かれているので、単なる「戦闘マンガ」とも違います。母を楽にしてやりたいというシノの心理も痛いほど分かるので、母殺しという一種の残酷な願いも理解ができて、読者も思わず応援したくなってしまうでしょう。

明治を舞台にしたマンガと言えば、和月伸宏先生の「るろうに剣心」が有名ですが、あちらはやはりジャンプマンガという性質上、あり得ないキャラクターや技が出て、「ファンタジー」の域を出ません。これは決して苦言ではなく、それが魅力でもあるのです。
それに対してこの作品は、どこまでもリアルなのが魅力です。確かに傷を受けても白銀の髪になりすぐに治る、食事をしなくても平気、という設定はファンタジーですが、それ以外はどこまでもリアルです。膨大な資料を得てから描いたのだろうな、と、作者の苦労がうかがい知れます。

シノは母を殺してあげることができるのか、また自身も楽になれるのか、展開が読めずとても楽しめるマンガです。
刀で戦う少女が好き、明治時代の世界観が好き、という方には絶対にハマるマンガだと思います。ぜひ読んでみてください。