巧みな恐怖演出の二重構造。
2022年7月29日に日本で公開された、韓国とタイの合作ホラー映画である本作。レーティングは「R18+」。
極めてざっくりとした話の内容としては、タイにある精霊を信仰する村で暮らす霊媒師の「ニム」と、その姪である「ミン」を中心とした人々に降りかかるあまりにも不可解で凄惨極まりない事件を描いたものとなっている。
モキュメンタリー形式の作品であるので、場面によっては激しく画面が揺れるため、画面酔いする方には厳しいところがあるかもしれない点については注意されたし。
この作品、怖がらせ方が本当にうまい。まずは前半、タイの村にいる霊媒師に迫るドキュメンタリーの撮影が始まる。
そこから頻繁に挟み込まれる不気味な違和感を放つ映像が、じわじわと見る者の心臓を締め付けてくる。
この時点でこの村に何かよくないことが起ころうとしていて、ミンに何かがとりついているであろうことが直感的に理解できる。そして常に付きまとう違和感が緊張の糸が途切れることを許さない。
続いて中盤。何かにとりつかれてしまったミンを救うべく、霊媒師であるニムやミンの母親、そのほかの親族も総出でそれぞれ行動を起こすのだが、何をやってもことごとく不振に終わり、それどころかその度に事態の深刻さが浮き彫りになっていく。
このあたりから要所要所でジャンプスケアが差し込まれるようになることもあって、物語の面では絶望が、映像の面では恐怖が演出され、本格的に気の休まるタイミングがなくなっていく。
観客は深い絶望に陥れられ、極度の緊張を強いられる。
そして終盤。ミンの家に監視カメラが設置されたあたりから一気にボルテージが上がっていき、ジャンプスケアをはじめとした恐怖映像や霊媒師たちの激しい儀式の様子が、畳みかけるように映し出される。恐怖と異常なハイテンションに振り回され、混乱した観客の脳内もまた謎のハイテンションに侵食されることとなる。
物語としてはもはやすべてが手遅れであり、ミンにとりついた何者かによる残虐極まりない殺戮が繰り広げられていくことになる。どうしようもない絶望と異常なテンションで繰り広げられるクライマックスにもはや変な笑いが浮かんでくるかもしれない。
最後に、すべてが終わった後でニムのとあるインタビュー映像が流れてこの作品は幕を閉じる。このシーン自体はとても静かなものであるが、ニムの言葉の意味が理解できたとき、あまりの絶望に全身から血の気が引くこと必至である。
この作品は、身の毛もよだつような物語による「意味的な恐怖」と、目をそらしたくなるような映像による「画的な恐怖」の双方一切の容赦がない二つの恐怖で、観客の心に休ませることなく最初から最後まで怖がらせ続けてくれる素晴らしいホラー映画となっている。
「しばらく本格的に怖いホラー映画を見ていないなぁ」という方は、ぜひともこの作品を見てみてほしい。