ある男

ある男のレビュー・評価・感想

ある男
9

ラストシーンに釘付けになりました

序盤の穏やかさは何だったのだろうと思うほどどんどん展開が変わっていき、色々と考えながらもどこかにヒントがあるはずと終始目が離せない映画でした。サスペンスとはまた違うスリルと、穏やかな風景なのになんだか落ち着くことができない不思議な空気感に、いつの間にか飲み込まれているような感覚でした。
生まれた時の環境や血筋など、自分ではどうしようもできないことで苦しんで生きてきた人物がたくさん登場します。しかし、苦しい状況も、他の状況で苦しんでいる他人から見ればうらやましく見えるなど、その矛盾と不条理さに観ながらも頭を抱えそうになりました。ラストシーンが衝撃的ではあったのですが、衝撃が走ってからしばらくして納得できるような流れになっていて、余韻も楽しむことができる映画だと思います。
また戸籍を交換することに関して、理にかなっているなという思いもありながら、それで本当に幸せになれるのだろうかという疑問も投げかけられており、登場人物全員の今後を見続けていたくなりました。続編がみたくなるような、苦しくなるから見たくないような、複雑な心境になります。
見終わったあと、自分の生まれた環境について、血筋について、状況について1度考えてみたくなる映画です。

ある男
8

自分のルーツと向き合い続けるつらさ

弁護士の城戸(妻夫木聡)は、昔の依頼主である里枝(安藤サクラ)から、「ある男」についての調査を依頼される。
その「男」大祐(窪田正孝)は、里枝と2人の子供たちと穏やかに暮らしていたが、ある日不慮の事故で亡くなってしまう。大祐の法要に訪れた、長年疎遠にしていた兄の恭一(眞島秀和)が遺影を見て「これ、大祐じゃないです」と言ったことから、大祐が全くの別人であることがわかった。

依頼を受けた城戸は、彼がいったい誰なのか、なぜ他人の人生を歩んでいたのかを調べはじめる。そして過去に彼の父親が起こした事件により、彼が背負ってきた傷を知ることになる。
彼の真の姿に近づくにつれ在日3世である城戸自身が、日常の中でことあるごとにつきつけられる自分のルーツへの偏見に対する思いと、大祐と称した男が戸籍を変えてまで別人の人生を歩みたいと思った心情とがリンクしていく。

妻夫木聡さんが時間を追うごとに、暗く重くなる心情をうまく表現している。また窪田正孝さんの過去の表情と、家族を持ってからの穏やかな表情との違いがとてもよく表現されていて素晴らしい。
そのほか演技に定評のある俳優陣がそれぞれの人物を繊細に表現しており、主人公だけでなく、どの人物の心情にも共感できる作品。