SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん

SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさんのレビュー・評価・感想

SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん
9

歌や音楽、そして空気感が強烈な絵で表現された逸品

「27歳で死んだロックのレジェンド達が現代のミュージシャンに憑依してくれる! 」
とある男がその伝説を信じ、指定の十字路で願いをかけた。だが男は下手を打った。彼は既に伝説の条件である27歳を越えていたのだ。
願いは悲しいかな、その妹である主人公(高校英語女教師)へと流れてしまった……。
平々凡々な日々を送っていた主人公は、近付く27歳の誕生日までに「伝説」を作らないといけない。さもなければその命が失われる。
彼女に憑いたのはジミ・ヘンドリックス。平凡な彼女は一度捨てたギターを手に、「史上最高のロックギタリスト」と共に「伝説」となるために動き出す。
その後は教え子高校生達とのバンド結成、コンテスト参加、ライバルバンドの登場と話は進んで行くのだが、この作品の素晴らしい部分は「演奏時の描き方」なのだ。
この作品にはロックバンドだけでなく、個人同士のセッション、ブラスバンドも登場する。吹奏楽部との絡みも前半は多いため、管楽器特有の音の描き方も面白い。しかし、その中でもロックバンドの演奏場面、バトルの様子が飛び抜けているのだ。
音の無い画面上で、様々なバンドの個性をある程度の配分された尺で描きわけつつ、その音楽の持つパワーを全面に押し出す必要がある。この作品はそのバランスが素晴らしい。
「観客に彼らの音がどうぶつかっていくのか」が見開き絵で表現された時のパワーの凄まじさは、やはり一度体験してみてもらいたい。
そして主人公達アマチュアのそれだけでも非常に血が騒ぐのだが、レジェンド憑依組を集めたバンドの本気の場ではまた別の思いがかきたてられる。
レジェンド達に詳しくない筆者であってもそうなのだから、もし読者が少しでも彼らの音楽を愛する者であったなら――。
少々羨ましくなるものである。