海が走るエンドロール

『海が走るエンドロール』は、たらちねジョンによる漫画作品。秋田書店の『ミステリーボニータ』にて、2020年11月号から連載。
65歳を過ぎて夫と死別し、数十年ぶりに映画館を訪れた茅野うみ子は、不思議な雰囲気を放つ美大生、濱内海(カイ)と出会う。「今からだって死ぬ気で、映画作った方がいいよ」という海の一言で、自分が映画を撮りたい側の人間であるということに気づかされ美大への入学を決意する。65歳にして美術大学に新入学した女性が、映画制作という創作の海を目標に向かって四苦八苦しながらひた走る姿を描いた物語である。
1巻発売と同時に、作者・たらちねジョンのTwitter上で第1話の試し読みを公開し大きな反響を得る。読者からの反響・人気を受けて、「このマンガがすごい!2022」オンナ編の第1位を受賞。この時、2位作品に2倍の差をつけて1位を獲得している。また、翌年の「このマンガがすごい!2023」オンナ編では第6位を獲得。2年連続で、上位ランクイン入りを果たしている。

海が走るエンドロールのレビュー・評価・感想

海が走るエンドロール
10

シルバーガールの全力

裏表紙のあらすじに、「シルバーガールとブルーボーイのシーサイドシネマパラダイス」と書いてある通り、この物語は65歳の女性と20代の男の子の映画作りに対する情熱が描かれた物語で、映画「ニューシネマパラダイス」を彷彿とさせるお話です。
私は年齢的にシルバーガールの方のうみ子さんに肩入れして読んでいます。彼女は65歳で美大の映像学科に入学して、若い人たちと一緒に切磋琢磨しながら映画監督になるための活動をしていくのですが、そこはやはり体力的にも無理があり、途中で過労で倒れて、自分が初老の女性という弱い存在だという自覚を持ち、弱気になるのです。
ブルーボーイの海くんは、うみ子さんが映画作りに対して自分と同じ熱量を持っていると思っているから、「この先も自分と並走して映画を撮って行きましょう!」と伝えます。でも初老のうみ子さんには海くんのその言葉が響きません。その時のうみ子さんの感情の動きが、私には手に取るようにわかりました。でもうみ子さんは、そこから少しずつ立ち直り、映画祭のコンテストに出す映画を作ります。その映画は入選すらせず、海くんの映画が最優秀賞を取ります。うみ子さんは海くんの受賞を喜びますが、自分の手を見て「しわしわの手」と言い、また自分の老いを感じてしまいます。
自分の作った映画の感性が、今の時代に追い付いていないのか。そう感じたのだろうと思いました。海くんも家庭の事情とか、いろいろな障害を乗り越えながら頑張って映画監督になる夢を現実しようとしているので、それはとても魅力的な描写になっていますが、私はうみ子さんの老いを意識しながら夢を追っている姿に感動します。まだ6巻までしか出版されていないので、この先が楽しみです。