柚原杏梨

柚原杏梨のレビュー・評価・感想

柚原杏梨
7

関西地下アイドルシンガーのレジェンド的存在にして後発の若手アイドルに多大な影響を与えたセルフブランディング戦略と自己鍛錬スキーム

オタクの聖地・秋葉原が電気屋街から脱却し「萌えカルチャー」の街へと変貌を遂げた2010年前後、関西の秋葉原と呼ばれていた大阪・日本橋エリアは依然として個人経営の家電店や工具屋が軒を連ねており東京と比べてエンタメ文化面でのおくれをとっていたのだが、そこに突如として現れたのがアイドル系シンガーの柚原杏梨である。彼女の持ち味はアイドル的なキラキラ感溢れるビジュアルに加えほぼ独学で身につけた確固たるヴォーカル能力に当時ニコニコ動画などで流行していた「踊ってみた」系のパフォーマンスを融合させた唯一無二のステージ構成。アイドルでもなくシンガーでもない、それでいてアニソンやボカロカバーなど萌え要素に満ちたセトリでオタク心を掴みきる自己プロデュースのセンスにはポンバシ(日本橋)を拠点に新しいタイプの萌えを求めていたオタク達の誰もが魅了された。
2016年を境に、安易にオタクを盛り上げやすいメジャーなアイドル楽曲のカバーが主流だった地下アイドルのライブシーンにオリジナル曲を多用したセトリで勝負を挑むようになり、2018年にはオリジナル曲を含む全国流通1stアルバムをリリース。以降、フリーランスのアイドルとしては異例のサブスクによる楽曲配信や大規模ライブハウスでのワンマン主催など地下アイドル業界の常識にとらわれないアグレッシブな活動スタイルでインディーズ業界のみならずメジャーの音楽関係者からも注目を集めるようになる。AKB全盛期頃に大量発生したフリーのソロ地下アイドルの大半が柚原杏梨のセルフブランディング戦略を参考にしていると言われており、普通の女の子がアイドルを目指すというキャリアパスを確立させた存在としても業界への貢献度は果てしなく大きい。