ラウドミュージック界のYMO?実験性の先の高みに到達した日本が誇るバンド・BOREDOMS
アメリカのCDショップでも比較的簡単にCDを手に入れられる日本のバンドと言えば、YMO、ザ・ブルーハーツ、CorneliusとBOREDOMSとなります。この中でBOREDOMSの日本での認知度が飛び抜けて低いので紹介いたします。
BOREDOMSは、Voの山塚アイを中心に86年大阪で結成されたアバンギャルドなノイズバンド。俗にいう「バンド・ブーム」と英国のハードコア・ムーブメントを受けて、80年代中期以降に全国から数多くの良質なパンクバンドが現れた中でも、BOREDOMSは「実験性の極北」に位置するバンドと言えます。メンバーが固定されていない上に、バンド名・個人名の変更も頻繁で、バンド編成も縦横無尽。’08年8月のLAでのライブでは、ドラムがなんと88名。’11年12月の京都でのライブではGt×11名、Ba×4名、Dr×6名と、意味を考える事すら無意味化させるインパクトで、世界的に見ても「聴く」ということ以上に「体感する」ことが最も望まれるバンドでもあります。
1stアルバム「恐山のストゥージス狂(87年)」、2ndアルバム「ソウル・ディスチャージ'99(89年)」は、前身バンド「ハナタラシ」の流れをくむ、真っ当なハードコア・バンドの体裁で、楽曲も3分以内が中心、ディストーション・ギターが唸り、歌詞すらない叫び声がひたすら続くノイズ・サウンドです。そこかしこに鋭利な実験性は感じつつも、アルバムタイトルが示す通り米英パンクバンドの先人たちのマナーに則った「しっかりしたノイズバンド」の印象です。しかし、BOREDOMSの肝とも言えるライブ・パフォーマンスは当時から斬新だったようで、米国オルタナティブ・ロックの先駆者・ソニックユースが来日した際にそのパフォーマンスを気に入りツアー・サポートに抜擢したり(後に共作CDも制作)、NYの前衛サックス奏者・ジョン・ゾーンのアルバムにゲスト参加したり、と80年代末から海外ミュージシャンとの交流も広げていきます。
そんな海外トピックのおかげもあってか3rdアルバム「Pop Tatari(92年)」ではついに日本メジャーデビュー。録音環境も劇的に良くなり、このアルバムでBOREDOMSが本来持ち合わせていた猥雑さ+実験性+ポップさが爆発します。「楽曲」としての体裁はほとんど取れておらず、ハチャメチャなノイズ度合いは倍増しているにもかかわらず、音楽として心地よく聴くことの出来る不思議。パンク、ヘヴィメタルからファンク、ダブ、エレクトロニカ、はたまた民族音楽や民謡、芸人の一発ギャグまで、時代やジャンルさえ縦断横断しまくる音楽性と確かな演奏技術。複数のドラムから複雑なポリリズムが絡み合う土着的かつ祝祭的な響きの中で、耳をつんざく山塚アイの意味不明な叫び声の呪術性かつユーモア性も際立ち、もはや異次元の世界観。「精神の解放」という音楽の持つ根源的な役割を、最も体現しているバンドであることは「Pop Tatari」を聴けば十分に伝わるはずです。NirvanaやAphex Twinといった海外有名アーティストもこぞって絶賛したことも頷け、’93年に全米でも発売されました。
以降「Super Roots」シリーズ(93年~09年)、「スーパーアー(98年)」「VISION CREATION NEWSUN(99年)」など、ノイズより響きに軸足を置いて録音技術を駆使した傑作群を次々に発表し、ライブでもギターのネックを7本組み合わせた謎の自作打楽器を叩きまくったり、前述のドラム88名ライブを敢行したりと精力的な活動を行い、世界的にも唯我独尊の境地に入っていました。しかし「Super Roots 10(09年)」を最後に「録音芸術に興味が無くなった」とCD制作は休止し、他の追随を許していなかったライブ活動も’10年代に入り数が激減していき、’16年のフジロックのオープニングアクトを最後に休止中です。
耳障りだけ良いキャンディ・ポップばかり溢れる音楽シーンにおいて、BOREDOMS独特のプリミティブに音を楽しめる快感を渇望している輩も多いと思われます。観客を驚かすことに重きを置くBOREDOMSゆえ、ふらっとライブ復活の予感もありますが、いずれにせよ早期復活が祈られる日本が世界に誇るバンドであることは間違いありません。