フールナイト

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フールナイト
9

明けない夜の物語

分厚い雲が空を覆い、朝が来なくなって100年が経った世界。植物が光合成をできなくなった世界で、増え続ける二酸化炭素を減らし、酸素を増やすために開発されたのは、人間を植物に変える「転花」技術だったーー。
明けない夜がやってきた世界で、貧富の対称的な家庭に生まれた幼馴染み2人を中心に物語が進み、「人間の尊厳とは?」「社会とは?」「幸福とは?」と読むものに問いかける作品です。
物語の中核を担う「転花技術」は、生きている人間に植えられた種がその人間の魂を消費して成長し、2年の歳月をかけてその人間を完全な植物に変えてしまうという技術です。
倫理上の観点から、この種を植えられるのは病気や怪我で死期が近づいている人間に限定され、植えられた人間は国から支援金1000万円が支払われます。
この支援金を捻出するため、市民には「酸素税」の納税が義務付けられており、疲弊し貧富の差が激しい社会において、貧しい人々を苦しめています。
転花によって植物になった人が発する酸素がなければ呼吸ができない世界でありながら、転花技術に反対し酸素税の撤廃を求める者がいる。支援金欲しさに自殺を図る人がいる。子供の進学が近づく中、ようやく確保できた入学金が酸素税に消えようとする親がいる。
現実とはかけ離れた世界で繰り広げられる人間たちの物語は、他人事とは思えない、ただのフィクションと片付けられない、どこかで見たような景色でできています。
そんなある日、転花処置を施された人間が起こしたと見られる殺人事件が、世界を大きく動かしていきます。
ページをめくった次の瞬間に何が起こるのか全く予測がつかないのに、起こった出来事を見るとなぜかすんなり納得できてしまう、人間社会の根本に問題提起を突き立てる作品です。