渋谷慶一郎

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渋谷慶一郎
8

映画と合わせて聴きたいサウンドトラック「ATAK024 Midnight Swan」

草彅剛主演・内田英治監督作品、映画『ミッドナイトスワン』をもうご覧になっただろうか?今回紹介する渋谷慶一郎、11年ぶりのピアノソロアルバム「ATAK024 Midnight Swan」はこの映画のために書き下ろしたサウンドトラック全14曲をピアノソロ楽曲として再構成している。
映画はトランスジェンダーとして身体と心の葛藤を抱える凪沙が、実の母に見捨てられた少女一果と出会い、母性に目覚めていく物語。母親になりたかった凪沙が紡ぐ切なく衝撃的なラブストーリーなのだが、この世界観を音楽で見事に体現しているのが本作だ。この作品なくして、映画を語ることは不可能だろうとさえ感じている。
また、本作のジャケットには中国の写真家であるリン・チーペンことNo.223の写真を起用。保守的な文化状況の中で、彼が切り取った若者たちの愛や悲しみと政治的な活動の痕跡による断片的な写真は、映画に登場する若者、一果やりんとも重なる。
約2時間の映画全編の作曲からレコーディングまでを渋谷自身が自らスタジオに篭もり、1週間で完成させた傑作。セリフや映画内の登場上人物の視線の動きに合わせて、ピアノの旋律や音の余韻をどう活かして作曲するかにこだわり抜いたもようで、ぜひ映画と合わせて聴いてほしい1枚だ。