アンネ=ゾフィー・ムター

アンネ=ゾフィー・ムターのレビュー・評価・感想

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アンネ=ゾフィー・ムター
10

ヴァイオリンの女王

『アンネ・ゾフィー・ムター』は、ヴァイオリンの女王と呼ばれてきました。『ヘルベルト・フォン・カラヤン』に少女の頃に見出されてデビューしてから、まさしく快刀乱麻、天馬空を行くが如くに人気実力ともにトップクラスの演奏を披露してきました。その演奏の魅力はどこにあるのでしょうか?それは、正確な音程、香気溢れる豊かな音色、そして優れた表現力からだと私は思います。彼女の才能を見出したカラヤンはさすが『帝王』と呼ばれるだけのことはある。人の才能を見抜く眼力が素晴らしい。ムターは多くのディスクを世に送り出してきました。とりわけ、初期のカラヤンと組んだヴァイオリン協奏曲のなかでは、ベートーヴェンがやはり素晴らしいと思います。特に第一楽章のカデンツァでは流麗な演奏を披露していて、聴く者を唸らせます。カラヤン没後にリリースした『クルト・マズア』と組んだベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、音色の豊かさではカラヤン盤を上回っています。このように豊かな音色が出せるというのは弓の弾き方、即ちボーイングがしっかりしているということでしょうね。ムターは室内楽でも豊かな演奏を繰り広げています。とりわけベートーヴェンのヴァイオリンとピアノのためのソナタ全10曲の演奏は、この名曲のディスクとしては屈指のものと言えるでしょう。音程が正確であるというのも大きなことで、有名なヴァイオリニストでも音程が年々おかしくなる例は幾多もあります。ムターの日頃の鍛錬が感じられますね。今後とも注目していきたいと思います。