聖なるもの

聖なるもののレビュー・評価・感想

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聖なるもの
10

”創作意欲”の本質をついた作品

あらすじ
某大学の映画サークルに所属する主人公は映画を一本も撮れないまま3年生になってしまっていた。主演女優を探しはじめた主人公は先輩から「新歓の怪談」の話を聞く。4年に一度新歓に現れるという黒髪で大きな目を持った美少女、彼女を見たものは衝動的に映画が撮りたくなるという。そして迎えた新歓当日、彼の目の前に怪談の少女が現れる。こうして彼は周囲を巻き込みながら”彼女”を主演に映画を撮っていくのだが…。

この映画は「映画を撮る映画」であり所謂モキュメンタリーと呼ばれるジャンルの作品である。
そしてこの作品で描かれているのは「創作意欲」とは何か、であると考える。
"彼女”を見たものは衝動的に映画を撮りたくなる、という設定から彼女=創作意欲の擬人化であり、創作の衝動に駆られる瞬間の興奮は異性に向ける興奮に近いものであることをこの作品は語っている。つまるところ創作意欲=恋であると監督は言っているのだ。
というのも、彼女と出会ったあと主人公が作る映画は良い言い方をすればシュールで、悪い言い方をすれば意味不明であり、独りよがりで、そもそも他人に理解されることを必要としていないようであった。恋は盲目という言葉があるがまさにそうで、打算がない純粋な感情は時に痛々しく、向こうみずで周りから理解され難いものである。創作活動もまた、同じであるとういことを監督は言いたいのだろうと考える。
しかしその創作活動に商業的な意味合いが加わると意味が変わってきてしまう。利益を得るためには少なからず大衆と迎合し、妥協しなければならない時がある。その瞬間、創作から純粋性は失われ恋は冷めてしまうのではないだろうか。
その上でこの作品の素晴らしいところはこの映画自体が自主映画であるということだろう。この作品は監督のエゴであり、性欲であり、恋の記録なのである。
このようなエゴの塊のような変態映画が現れるからインディーズ映画はやめられない…。