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古いけど新しいラブストーリー
とってもチャーミングな作品。
ひょんなことから“かわいい”娼婦イルマ(シャーリー・マクレーン)のヒモになってしまったネスター(ジャック・レモン)。愛する女を他の男が抱くなんて許せん!と、自分が金持ち爺さんに変装して彼女の上客になる…な~んて、こんなハチャメチャなストーリーがあり得るかと呆れるが、これがビリー・ワイルダーの手にかかると、ぶっ飛びのナンセンス・コメディもちょっと切ないラブストーリーとして見事に成立してしまう。
冒頭、パリの裏町レ・アルの市場を詳細に見せるシークエンスが、実は物語の単なる背景ではなかったり、窓にぶらさがるストッキングもネスターが持ち帰る警察の制服も後半の重要な伏線になっているなど、けっこう芸が細かい。あらぬ方向へと暴走しまくるストーリーに比して演出が緻密に組み立てられているので、内容に整合性がなくても映画としては上手くまとまっているなぁと思わせられる。実に良く出来たフィクションだなぁと感心してしまった。
なにしろ、レモン扮するネスターという男の、一途な想いと虚勢の張り方がなんとも胸に迫る。もっと素直になればいいものを無理に無理を重ねて、虚構と現実の狭間で身動きが取れなくなる、この男の姿がとても愛おしくて私は泣いてしまった。ジャック・レモンって、ホント「やせ我慢」の美学が似合う。顔で笑って心で泣いて。カッコいいってこういう事。