狼をさがして

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狼をさがして
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三菱重工ビル爆破事件犯たちの事件後46年の軌跡を追った異色作『狼をさがして』

1974年8月30日、東京・丸の内の三菱重工本社ビルで時限爆弾が爆発しました。8名の死者と約380名の負傷者が出たこの事件は日本社会を震撼させました。事件から1ヶ月後、犯人から声明文が出されます。「東アジア反日武装戦線「狼」」と名乗るその組織は、この爆破を「日帝の侵略企業・植民者に対する攻撃である」と宣言。その後、別働隊「大地の牙」と「さそり」が現れ、翌年5月までの間に旧財閥系企業や大手ゼネコンを標的とした「連続企業爆破事件」が続きます。
1975年5月19日、世間を騒がせた「東アジア反日武装戦線」一斉逮捕のニュースが大々的に報じられました。人々を何よりも驚かせたのは、彼らの素顔が、会社員としてごく普通に市民生活を送る20代半ばの若者たちだったという事実です。凄惨な爆破事件ばかりが人々の記憶に残る一方で、実際に彼らが何を考え、何を変えようとしたのかは知られていません。
時は過ぎ、2000年代初頭、釜ヶ崎で日雇い労働者を撮影していた韓国のキム・ミレ監督が、一人の労働者から東アジア反日武装戦線の存在を知り、彼らの思想を辿るドキュメントを撮り始めました。出所したメンバーやその家族、支援者の証言を追う中で、彼らの思想の根源が紐解かれていきます。
高度経済成長の只中、日本に影を落とす帝国主義の闇。彼らが抗していたものとは何だったのでしょうか?彼らの言う「反日」とは?未解決の戦後史がそこに立ち現れるのです。