旅芸人の記録

旅芸人の記録のレビュー・評価・感想

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旅芸人の記録
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ギリシア現代史を「旅する」長尺の歴史映画『旅芸人の記録』

『旅芸人の記録』は1975年に公開されたギリシア映画で、監督はテオ・アンゲロプロス。1839年から1952年までの20世紀中葉のギリシア史を跡付けています。
『旅芸人の記録』は1974年に軍事政権が崩壊し、ギリシアが民主的な統治に戻った後で一般公開されました。しかし、テオ・アンゲロプロスは独裁政権下の1974年、すわわち権力から自分の作品を守らなくてはいけなかった時期を通して映画の作業を続けていました。作業を続けるために、自分は第二次世界大戦下の枢軸国支配の時期を舞台に移し変えた神話「オレステス」を製作しているのだと主張してきました。アンゲロプロスは軍事政府が『旅芸人の記録』の構想を与えたと言い張っています。アンゲロプロスは以前は社会主義新聞の映画批評家であり、2つのことを分析したがっていたのです。ギリシア史の中の存在を左翼の視点から考察することと、ギリシアに民主主義を確立することがいかに難しかったこと。映画は1975年に公開されました。
多くの批評家たちが『旅芸人の記録』をアンゲロプロスの傑作であると主張しています。16人の批評家と16人の監督が本作を最も好みの1作であると、2012年の英国映画研究所の視覚・聴覚投票において宣言しています。テオ・アンゲロプロスの多くの映画と同様に、『旅芸人の記録』は長回しの、静的なテイクを用いており、複雑なトラッキングショットと組み合わせることで、美しい風景写真がシュルレアルな雰囲気を醸し出します。映画内のショットは予告なく時系列を前後することが多くて、重要な場面のあとには観客が起こったことを思索できるように「間」が取られています。
『旅芸人の記録』はギリシアで大きな商業的な成功を収め、また国際的にも評価を勝ち取りました。多くの批評家は本作を新ギリシア映画の最高の達成とみなし、20世紀後半における最重要な映画の一作であるとしています。日本の映画監督・黒澤明は『旅芸人の記録』を好みの一作として挙げています。