ボイス・オブ・ムーン

ボイス・オブ・ムーンのレビュー・評価・感想

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ボイス・オブ・ムーン
10

巨匠の遺作

『ボイスオブムーン』は、イタリア映画界の巨匠、フェデリコ・フェリーニの遺作となった作品で、1990年に公開されました。
この映画は、心を病んでいる主人公が井戸から自分を呼んでいる声が聞こえると語っているところから始まります。やがて彼はさまざまな人物と出会いますが、月を捕らえることに成功したというテレビ局の話があり、主人公は元の井戸を見に戻っていくというストーリーです。
この作品には明確なストーリーがありませんが、その代わりにさまざまな思索に観客を導くような仕掛けが施されています。とても幻想的で、晩年のフェリーニの典型的なスタイルの作品です。夢と現実がないまぜになっていて、とても楽しい映画となっています。しかし人生に関して考えさせるような深みもある、懐の深い作品です。
ただこういった作品に関してはあまり理屈っぽく考える必要はないと思います。それよりもフェリーニが生み出した夢幻的な世界に心を遊ばせればよいのです。
フェリーニはある時期以降カッチリとしたストーリーのある映画をあまり撮らなくなりましたが、例外は『ジンジャーとフレッド』また、『ボイスオブムーン』もその典型です。それは心の赴くままに自在な境地で映画を撮りだしたということなのだと思います。
この作品を見ていて気になるのは、主人公をある企みに誘おうとする元知事の存在です。フェリーニは彼を通して俗悪な現代を批判しようとしたのではないかと思います。映画の中では、この元知事は頭のおかしな存在として周りから疎外されているのですが、寧ろおかしいのは周りの人間たちなのではないかとフェリーニは言いたかったような気がします。
このように面白い作品を江湖にお薦めいたします。